序章

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「ええと、尻尾の剣が、草薙剣のあれですね」 「お、さすがに知ってたか。なら話が早い。それで、君はヤマタノオロチは実在したと思うかい?」 なにか何処かで聞いた話。 この場合の蛇は、古代出雲の製鉄技術や、土地を潤していた河川の暗喩。もしくは当時の出雲政権と北陸諸国との戦争を口伝として伝えた伝承ではないかと、未だに多くの議論が続けられているのだと、片齧りの知識を答えた。 もちろん、テレビの中の専門家の受け売りでしかない。 「ええと確か、あれは出雲地方を治めていた豪族の話、という説もありますね。ヤマタは山多、あるいは複数の意味を持っていて定型出来ないとか…」 「…最近の学生は、また博学だね。良い傾向だ」  青年は楽しそうに、くすりと笑った。 「いやいや、それだけ知ってれば充分だ」 「それが何か?」 「いやさ、この山にも『蛇』に関係する伝説があるだろう?」 「もし本当に何か出てきたら、現代版シュリーマンの登場ですね」 「…ふむふむ、けれども事実は小説より奇なり。何年か前、実際に偉い学者さん達がこの山に来て、古代の伝承に従って遺跡を探したことがある。そしたら、出るわ出るわ」 発掘されたのは、古い時代の製鉄所。 所謂たたら場と呼ばれる遺構が、大撫山の谷合いから複数の場所で発見された。 世の伝説とは、意外と共通点を持っているらしく、深く聞けば、長尾や金近など、伝説関連を裏付ける地名が現代においても幾つも残されているのだそうだ。
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