序章

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「実に興味深い、とは思わないか?」 「ええ、まあ。関西の端っこと思っていましたが、中国地方や出雲との繋がりも、地元の民話に残されているものなんですね」 「まあな。…それで君は、天文学に興味があるのかい?」 なんとも返答に困る質問だった。私は苦笑いを浮かべるしかない。 「正直言えば、あまり興味はないかも知れません」 何度も書くが、今回の星見は完全な思いつき。 単にネット上で、思ったより近くに参加可能な大きな天体望遠鏡があることを知り、この町を訪れただけだ。「それなら見てみたいかも」という程度のミーハーな興味。本当に星が好きな人からすれば、なんとも失礼な動機なのかも知れない。 「いやいや、好奇心旺盛なのは悪くない。しかし、どうにも君は無謀だ。もしかして書籍やネットだけで知識を集めるタイプかい?」 「……ええ、まあ」 「それは気を付けないと、これから将来的に苦労するよ」 青年の笑顔は崩れないが、年長者としての重みを感じさせた。 これから夜を迎え、本格的に冷え込んでくればなおさらのこと。今日のように雲の少ない空は、星を澄み渡って見せる代わりに、放射冷却の影響が強く出る。その結果、山の気温は平野部もより冷え込みやすい状況が作り上げられる。 言われてみれば当然のこと。
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