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金田さんが言い直してくれた。
「『パン屋』ではない、僕と男女交際してくれと言っている」
「なんだ。結構普通なことも言えるんですね……って、はい?」
男女交際とはなんだろう。男女で何をするの。
やっぱりパン屋だと思う。クロワッサンムーブメントにさようならした日本国家の最後の要である塩パンを買いに行くのだろうか。
「いきなりで驚いただろう」
「そりゃ塩パンですからね」
「はあ?」
本気で呆れられた。
え、違うの?
「君、もしかしてパン屋しか頭にないのか?」
「それ以外に話ありましたっけ」
それともチーズですか? 大丈夫ですよ素手で触らなければチーズはめったにアオカビ生えません。
「はあ、まさかこれほどまでとは……いいか、君と付き合いたいって何も買い物だけの意味でもない。そうだな、簡単に言うのなら」
困り果てた金田さんは私の右手をとる。そして、両の手で握り締めて、こちらを見つめてこう言った。
「好きだ。とでも言えばいいか」
はい?
スキって。うわ。
顔が沸騰しそうになった。照れそう照り焼きハンバーガーだってここまでデレデレにならないのに。私って、え、初対面の人に告白された。何で! というか何故!!?
「だが、安心してくれ。僕には君にやましい気などない」
いや、その発言自体がやましすぎるよ! 何が無欲っぽい発言だ! へんたーい! 変態!
金田さんは続けてこういった。真剣な眼差しで。じっと見つめてこないでください。
「僕はただ事を突き詰めたいだけだ。目の前に提示された人生最大の謎に正面から向かいたいだけだ」
その時、私の頭の中が弾けた。
富士山は世界遺産だけれども、活火山だそうだ。いつ噴火するのだろう、もし噴火した場合目の前の人間は真っ先に吹き飛ばされるのではなかろうか。
そんなことを思い出した。どうしよう。これは人生の走馬灯かも知れない。
でもって来世はパンの生地を伸ばす棒になる。さようなら。
「僕が追及したいこと、その謎が何か分かるか」
「いいえ」
「なら教えよう」
金田さんはこの後、私の個人的歴史の中で最強最悪の言葉を言い放った。
「――失敗を繰り返すという行為は、いつ学問に転じるのか。というわけで、うちでパソコンをぶっ壊した君をスカウトしに来た」
はい?
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