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「このカラクリは、大人たちは皆知っているのか?」
「いや。村長と、数人だな。俺たちみたいな食い詰め者の、たまの楽しみさ」
旅に出る勇気も無いが、ただ大人しく暮らすこともできない連中か。タクラは、かつて感じたのとはまた違う嫌悪を感じた。
「剣と食糧は置いていく。見逃してくれないか?」
ヒセイ達はただ、薄笑いを浮かべながら近づいてくる。あの顔だ。ああはなるまいと誓った、あの顔。交渉など、やはり無駄だった。
タクラは背を向け、走った。
咄嗟のことに、ヒセイ達の出足が一瞬遅れた。
「逃げたぞ! そっちだ」
ヒセイが叫ぶ。
タクラの走る先、茂みから一人の男が現れた。
やはり、他にもいたか。タクラは走る勢いをそのままに、剣を振るった。男は手にした棍棒で受けようとしたが間に合わず、手首に一撃を受けた。骨が砕けた。悲鳴を上げて崩れ落ちる。
タクラはさらに走る。木立ちの中へ逃げた。ヒセイともう一人が追ってくる。一人は、倒れた男に声をかけていた。走る。一番の年嵩であるヒセイが遅れた。これで1対1。タクラは振り向き、槍を持って迫る男と対峙した。相手の側面に回るように近づく。木が邪魔をして槍は振り回せない。突きだされた槍を姿勢を低くしてかわし、相手の足に剣を叩きつける。膝から下が、あらぬ方向へ曲がった。倒れた男の顔を踏み潰して黙らせる。
ヒセイが追いついてきた。
「チッ」
状況を見たヒセイは槍を捨てた。無手で間合いを詰める。荒んだ者達の中で生きてきた男だ。殴り合いには慣れている。最も頼りになるのは己の拳。
タクラは剣を構えた。距離を取れば、有利。しかし、重く、不慣れなこの武器を、ヒセイに当てられる気がしない。
タクラは剣を投げつけた。驚いてかわしたヒセイに掴み掛かる。組み付いたまま共に倒れ込む。ヒセイは、引き剥がそうとし、あるいは密着した状態で殴ろうとした。だが、タクラは離れない。単純な腕力ではタクラが勝っていた。組み付き、もみ合う事による体力の消耗は激しい。
客観的には、そう長い時間ではなかったが、当人達にとっては互いの命を掛けた長い攻防だった。
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