後悔しても手遅れです(改稿版)

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 夏樹が無言で袋の中を覗いているのをどう勘違いしたのか、店のコーヒーゼリーを買い占めたことを久志が得意げに言った。 「それと、夏樹。そのままでは体が冷えてしまうよ。とても魅力的だが、今の私にはちょっと目の毒だ」 「え? あ、うわっ! 俺、えっ」  朝のままの格好で寝入ってしまっていたため、夏樹は体に何も着けていない。 「これを着るといい」  久志が夏樹の肩に白いボア生地を掛けた。 「すみません、ありがとうございます――って、これ何ですか?」 「夏樹、君のために作らせた着ぐるみの白うさぎバージョンだ」 「は?」 「昨夜君に着せた子リスも素敵だったんだが、白うさぎも捨てがたくてね。洗い替えに作らせておいた。気に入ってくれるといいんだが」 「子リス? 俺、そんなの着てたんですか?」 「ああ。とても君によく似合っていた。こちらの白うさぎもなかなか素敵だろう?」  絶対に喜ぶに違いないと信じてやまない様子で久志が夏樹のことを見つめている。  期待に目を輝かせている久志に「こんなの着たくありません」なんて告げるのはあまりに酷だ。  とりあえず嬉しそうにして、後で着ますとでも言っておけばいいだろう。そう判断した夏樹は、肩に掛けられた白い布地を両手で持って、目の前に広げた。 (──わ。ほんとにうさぎだ……)   夏樹は久志の方をちらりと見た。  明らかに、喜ぶ夏樹の反応を久志は待っている。 「……わー、うれしいです。ありがとうございます」  完全な棒読みだ。  だが、久志は全く気付いていないようで、いそいそと白い着ぐるみを手に取ると夏樹の体に当てがった。 「そうだろう。さっそく着てみるといい」 「――へ?」 「ん? どうした? 着方がわからないのか? 大丈夫、私が手伝ってあげよう。ほら、布団から出てきなさい」 「は? えっ、い、今から? 今から、それ、着るんですかっ?」 「そうだが?」 「あの、今すぐじゃなくて、後で……そう、後で着ますからっ」 「遠慮なんてしないで。君は本当に控えめだから……まあ、そんなところも好きだよ、夏樹」  泣くほど好きな相手から好きだよと言われているのにちっとも嬉しくない。  驚くほどの手際の良さで白うさぎの着ぐるみを着せられた夏樹は、そのまま久志にベッドへ押し倒された。 「ひっ、久志さん?」 「やはり思った通りだ。とてもよく似合っているよ……本当に素敵だ」
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