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それまでやる気なさそうにカタログをパラパラと捲っていた夏樹が、桜が丘学院の名前を修一が出した途端、ビクリと肩を震わせカタログに集中しているフリをした。
ちなみに、今夏樹が開いているのは接着剤関連のページで四穴のリングファイルなんてどこにも載っていない。
あきらかに挙動不審だ。
桜が丘のタヌキが夏樹のことを変な目で見ていることを知っている修一は、もしかしたら夏樹がタヌキに何かされたのではと思い至った。
そもそも夏樹は高校生の頃、通学時の満員電車に乗れば必ずと言っていいほど年配男性の痴漢に遭遇していた。また、休みの日に遊びに出掛けた際など、夏樹の姿が見当たらないと思って修一が辺りを探せば、知らない年配の男性にずるずるとどこかへ連れて行かれそうになっていたことも一度や二度ではない。
夏樹は、道を聞かれたので教えていたらいきなり手を掴まれたと言っていたが、これまでの経験からなぜ相手の下心に気づかないのか。
別段面倒見がいい方でもない修一なのだが、この年配のおじさま方から妙な方向に受けがいい夏樹のことは心配でずっと目が離せないでいる。
「お前さあ、もしかして青嶋のタヌキから何かされた?」
カタログに貼り付けようと付箋を探していた夏樹の動きがピタリと止まった。
「何かって……?」
「夏樹、お前が俺に隠し事なんて出来ないの分かってるだろう? お前ってすぐに顔に出るから、何かあったらすぐに分かるんだよ」
「…………昨日」
「昨日? ほら、言ってみろ」
「青嶋さんに飲みに誘われたんだ。それで……あの……」
どうやら、タヌキ教頭と飲みに行った際に何かあったらしい。だが、タヌキとの間で起こったことを言いたくないのか、夏樹は口を閉ざしてしまった。
「夏樹、言いたくないかもしれないけど、一人で悩んでいても解決しないぞ。お前と俺との仲じゃないか……どんなことでも相談に乗るから」
「修一……」
夏樹とは高校からの腐れ縁だ。
大学三年の時、二十歳になった夏樹から自分は同性しか好きになれないのだとカミングアウトされた。
夏樹には、修一との友情が終わってしまうかもしれないという覚悟があったそうだが、修一は「ああそうか」と不思議とすんなり夏樹のことを受け入れることができたのだ。多少のことでは動じない自信がある。
「昨夜、青嶋さんと飲みに行って」
「うん」
「帰りにホテルに誘われたんだ」
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