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「お父さんも心配かもしれませんが、子供は良くなるのも早いですから」
「……? ああ、すまない。ありがとう」
岩永が手際よく夏樹の額へ冷却シートを貼り付ける。
「…………んっ」
「お子さん、可愛らしいですね。少しでも楽になるといいのですが」
「子供? 私たちの間にはまだ子供はいないが」
「そうですか、お二人目はまだ……でも兄弟がいるのもいいものですよ。うちは娘が一人で……って、急がないといけませんでしたね」
岩永が運転席へ着くと静かに車は走り出した。
久志が隣へ目を向ける。冷却シートのおかげで落ち着いたのか、夏樹は静かに目を閉じていた。
間もなくタクシーは久志のマンションの前に到着した。
「お疲れ様でした。あの」
「――?」
「もしまた夜中に熱が高くなるようでしたら、脇の下とか足の付け根を冷やすといいですよ」
「……ああ、ありがとう」
久志は親切なタクシードライバー岩永へ礼を言うと、夏樹を横抱きにしてマンションの中へと姿を消した。
「早く良くなるといいですね。息子さん」
岩永は子供思いの父親の背中を見送り、その場を走り去った。
「さあ夏樹、着いたよ」
自宅へ到着した久志は、真っ直ぐ自分の寝室へ行くと、夏樹をベッドへそっと下ろした。
「ん……っ」
「夏樹?」
夏樹を寝かせて、そのまま離れようとした久志だったが、久志の首に夏樹がしがみついているため離れることができない。
「夏樹、離しなさい」
「……いや……だ、久志さん、行かないで」
いやいやと首を横に振りながら夏樹が久志に抱きつく。
「――夏樹? 君、本当に熱があるんじゃないか?」
夏樹の体が異常に熱い。
薬の副作用かもしれない。久志はさっきの親切なタクシードライバーの言葉を思い出した。
「確か脇の下と足の付け根を冷やせばよかったな。夏樹、悪いが少し離れるよ」
「やっ、久志さん」
必死で取り縋ろうとする夏樹の腕をやんわりと外し、久志は冷凍庫から保冷剤や氷を持ってくると、ベッドに腰掛けた。
「まさか、ここで役にたつとは思わなかったな」
久志が夏樹の腕を上げる。そして、着ぐるみのちょうど脇にあたる部分に迷いなく手を突っ込んだ。
「んっ」
「うん。ちょうどいいな」
「久志さん? これ……?」
「ポケットだ。深めに作ってあるから、ここに保冷剤を入れよう」
夏樹の着ぐるみ姿は絶対に可愛いに違いない。
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