後悔しても手遅れです(改稿版)

147/165
151人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「早かったなじゃありません! 私が松本くんの状態が心配で早めに来なかったら、あなた、この子に何をさせるつもりだったんですか!」 「いや、夏樹の方から迫ってきたんだが」 「――は?」 「嘘じゃないぞ」  久志の言葉を聞いた芹澤がベッドの方を振り返った。  夏樹は布団の中に潜っているが、布団を通して芹澤の刺さるような視線を感じる。 「松本くん、久志さんの言っていることは本当ですか?」 「芹澤、あまり夏樹のことを責めるな」 「久志さん、あなたは早く下着を着てください――松本くん?」  夏樹はそろそろと布団の中から顔を出した。 「松本くん?」 「……俺から行ったのは本当です」  臆病な小動物が巣穴から外の様子を窺うように、夏樹が布団の中から顔だけをそろりと出す。  芹澤が信じられないというように夏樹の顔を見る。 「ほら、私の言った通りだったろう」 「松本くん……」  得意げな様子の久志と、不憫な子を見るような眼差しで夏樹のことを見つめる芹澤。 「あのっ、違います! 確かに俺から久志さんの……に突っ込みましたが、それは久志さんがいきなり下着を脱ごうとするから、止めようとして……それで……」  ちょっとだけ興味があったのは否定しないが、自分から進んで久志の股間へ顔を突っ込んだりはしない。 「だから、俺の方からくっついてしまったのは本当ですけど、それは不幸な事故というか……」 「不幸な事故じゃないだろう。夏樹、照れてる君も愛らしいが、君はもっと自分の心に正直にならないといけないよ」 「――久志さん、あなたはちょっと黙っててください。松本くん、何となく状況は分かりました。すみません、私の誤解だったようですね」 「芹澤さん」  芹澤の誤解は解けたようだ。夏樹はほっと安堵の息をついた。 「松本くん……怖かったでしょう? 昨夜、あんなことがあったばかりだというのに、また朝から変態の餌食にされてしまって……」  そう言いながら芹澤が夏樹の髪を撫でる。  幼馴染で気心の知れた仲とはいえ、久志のことを変態扱いできるのは芹澤くらいのものだろう。 「ちょっと、久志さん」  ひとしきり夏樹のことを愛でた芹澤が、表情を一転させて久志のことを睨みつけた。 「何だ?」  いつの間にシャワーを浴びてきたのか、半乾きの髪にさっぱりした顔の久志がクローゼットの前でネクタイを締めている。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!