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「早かったなじゃありません! 私が松本くんの状態が心配で早めに来なかったら、あなた、この子に何をさせるつもりだったんですか!」
「いや、夏樹の方から迫ってきたんだが」
「――は?」
「嘘じゃないぞ」
久志の言葉を聞いた芹澤がベッドの方を振り返った。
夏樹は布団の中に潜っているが、布団を通して芹澤の刺さるような視線を感じる。
「松本くん、久志さんの言っていることは本当ですか?」
「芹澤、あまり夏樹のことを責めるな」
「久志さん、あなたは早く下着を着てください――松本くん?」
夏樹はそろそろと布団の中から顔を出した。
「松本くん?」
「……俺から行ったのは本当です」
臆病な小動物が巣穴から外の様子を窺うように、夏樹が布団の中から顔だけをそろりと出す。
芹澤が信じられないというように夏樹の顔を見る。
「ほら、私の言った通りだったろう」
「松本くん……」
得意げな様子の久志と、不憫な子を見るような眼差しで夏樹のことを見つめる芹澤。
「あのっ、違います! 確かに俺から久志さんの……に突っ込みましたが、それは久志さんがいきなり下着を脱ごうとするから、止めようとして……それで……」
ちょっとだけ興味があったのは否定しないが、自分から進んで久志の股間へ顔を突っ込んだりはしない。
「だから、俺の方からくっついてしまったのは本当ですけど、それは不幸な事故というか……」
「不幸な事故じゃないだろう。夏樹、照れてる君も愛らしいが、君はもっと自分の心に正直にならないといけないよ」
「――久志さん、あなたはちょっと黙っててください。松本くん、何となく状況は分かりました。すみません、私の誤解だったようですね」
「芹澤さん」
芹澤の誤解は解けたようだ。夏樹はほっと安堵の息をついた。
「松本くん……怖かったでしょう? 昨夜、あんなことがあったばかりだというのに、また朝から変態の餌食にされてしまって……」
そう言いながら芹澤が夏樹の髪を撫でる。
幼馴染で気心の知れた仲とはいえ、久志のことを変態扱いできるのは芹澤くらいのものだろう。
「ちょっと、久志さん」
ひとしきり夏樹のことを愛でた芹澤が、表情を一転させて久志のことを睨みつけた。
「何だ?」
いつの間にシャワーを浴びてきたのか、半乾きの髪にさっぱりした顔の久志がクローゼットの前でネクタイを締めている。
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