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「あなたが二十年もの間、一途に松本くんのことを想ってきたことは、私もずっと側で見てきたので知っています」
(――――え?)
芹澤の言葉を聞いた夏樹が、布団に包まったまま首だけを久志の方へ向けた。
夏樹に背中を向けているが、クローゼットの鏡に映った久志がバツの悪そうな顔をしている。
「おい、芹澤」
ネクタイを締めながら、久志が芹澤の言葉を制止する。
「何ですか?」
「もういいだろう」
「いいえ! 今度という今度は、私も久志さんへひとこと言わないと気がすみません! だいたい、昨夜だって具合の悪い松本くんを勝手に連れ出して……部屋を見に行った時に私がどれだけ驚いたか……」
「ちゃんと連絡はしただろう」
「ええ、ありましたよ。今朝!」
昨夜、突然姿を消した久志と夏樹のことを心配した芹澤は、一晩中、二人のことを探し回っていたらしい。
「携帯は繋がらないし、自宅は留守だし――いや、居留守ですね」
「芹澤さん……」
芹澤の目の下にうっすら隈ができている。
「松本くんの具合が悪くなったんじゃないかと思って、山路くんと一晩中、あちこちの病院を回って……おかげで近隣の病院の情報は完璧になりましたよ!」
「芹澤さん……すみません……」
全面的に夏樹が悪いわけではないが、芹澤が一晩中夏樹のことを探してくれていたと聞いて、夏樹は申し訳なさでいっぱいになった。
「松本くん……本当にあなたは良い子ですね……」
普段、久志から真摯に謝られたことなどないのだろう。芹澤は夏樹の謝罪の言葉に感動したように言葉を詰まらせた。
夏樹のことを抱きしめている芹澤を久志が横目でちらりと見る。
「良かったじゃないか。病院の情報も覚えたし、山路と一晩中一緒に過ごせたんだろう?」
全く反省の色のない様子で久志がスーツを羽織る。
「夏樹、仕事は休みなさい。出来るだけ早く帰るから、今日はおとなしくしているように――夏樹?」
「――――です」
「ん?」
「俺、今の久志さん、嫌いです」
「…………え?」
「俺と久志さんが突然いなくなって、芹澤さん、すごく心配してくれて……一晩中探してくれていたのに……山路さんだって……なのに、久志さん全然分かってないです。俺、思いやりのない人なんて嫌いです」
「…………夏樹?」
夏樹からの嫌い宣言に、久志の顔色がなくなる。
「えっ? どうしたんだ? 夏樹……?」
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