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「――え、そんな……俺、久志さんのこと嫌ってなんか……本当です」
芹澤のスーツの袖を掴み、焦ったように夏樹が言い募る。
芹澤は夏樹の頭を撫でながら、スーツの袖を掴む夏樹の手をやんわりと外した。
「ええ、松本くんの顔を見たらわかりました。あんなおバカのために泣いてたんでしょう? 目が真っ赤になっていますよ」
「なっ、泣いてなんかいません! これは寝不足で充血してるんです!」
「おや、そうですか。それじゃあ、やっぱり松本くんは久志さんのことを嫌いになってしまったんですね――わかりますよ。いい歳して初恋をこじらせてる我儘な男なんて嫌になって当然です」
「……あの、朝も聞いたんですけど、その初恋って……」
「ああ、それはですね……」
首を傾げている夏樹の手を握り、芹澤が口を開いたのと同時に、ものすごい勢いでドアが開いた。
「芹澤っ!」
「久志さん!」
「おや、久志さん。私が言いつけた仕事は終わったんですか?」
むすっとした表情の久志が芹澤へ紙袋を投げた。
「終わった。ちゃんと書類の角も揃えたし、左上をホッチキスで止めた――あと、余計なことは言うな」
「ちゃんと出来ていますね。全く……書類の整理しか出来ないなんて、どこの役立たずな会社役員ですか」
紙袋の中身を確認した芹澤が呆れた声を出す。
「まあいいでしょう。久志さん、今日の業務は終了です。私はこれで帰りますので、後は初恋の相手にもう一度告白でも何でもしてスッキリしてください」
「――えっ?」
「芹澤っ!」
何事もなかったように紙袋を抱えなおすと、くれぐれも無理をしないようにと夏樹に意味深な言葉を残して芹澤は部屋を出て行った。
「あの……久志さ……」
「夏樹、これを」
ベッドの側まで歩いてきた久志が、夏樹の前にコンビニの袋を差し出した。
「――え、あの」
「君の好きなコーヒーゼリーだ。仲直りしたいなら、プレゼントをしたらどうかと、山路が……何がいいか色々と考えたんだが、君の喜びそうなものがこれしか思いつかなかった」
「はあ、ありがとうございます」
膝の上に乗せられた袋には、夏樹がいつも食べているコーヒーゼリーが六個入っていた。
(ひとつでじゅうぶんなんだけど)
どう考えても、一度にこんなに食べられない。
「店にあったものを全部買ってきたんだ」
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