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恐らく通常モードの夏樹だったなら、久志のことをかっこいいと思っても、そうと悟られないように心の中でこっそり呟くだけだ。
もっと積極的になってもよさそうなものだが、好きになっても片想いばかりだったこれまでの年月が、自然と夏樹のことを消極的にさせてしまうのだ。
だが今の夏樹は、久志の手によってぐずぐずに蕩かされて、思ったことがそのまま態度に出てしまっていた。
「わかった……勝手にしろ。何? もう玄関前って、おい……ちょっ」
一方的に通話を切られた携帯を、久志が忌々しげに睨み付ける。
「夏樹、悪いが五分後に芹澤が来るから……夏樹?」
とろんと蕩けた瞳で見つめる夏樹と久志の目が合う。
「全く……君はどれだけ私の理性を試したら気が済むのかな? そんな目で見つめられたら私も我慢ができないよ」
「久志さん……」
あれで今まで我慢していたのか?と首を捻りたくなるような台詞を言いながら、もう一人の色ボケした男が動けない夏樹を横抱きにしソファへと運んだ。
「夏樹」
「久志、さん」
運ばれた先のソファの上で夏樹の上に久志が体重をかけてくる。まだ夢の中にいる夏樹は久志にされるがままだ。
久志に促され、夏樹はゆっくりと瞼を閉じた。
「はい、ストップ。久志さん、そこまでです」
「芹澤か」
「芹澤か、じゃないです。ああ、松本くん……大丈夫ですか? 久志さんに酷いことはされなかったですか?」
「……芹澤さん?」
「はい。もう大丈夫ですよ、芹澤が来たからには安心してください」
そう言いながら夏樹の服装の乱れを芹澤が整える。
「せっ、せ、芹澤さんっ? う、わっ、これは……あの」
「いいんですよ。おそらく食欲を満たした久志さんから、次は性欲とばかりに無理矢理迫られたんでしょう?」
「バカを言うな。ちゃんと合意の上だ」
「信用できません。私はなっちゃ……松本くんのお母様からくれぐれも息子をよろしくと頼まれているんです。久志さんといえど勝手なことはこの芹澤が許しませんよ」
「――――は?」
「時間を見計らって来てよかった。あと少しでなっちゃんがムッツリの餌食になるところでした」
「おい、芹澤。なっちゃんって何だ、それに夏樹の母親って……」
ムッツリは否定しないのか。
「さて、今日は報告することがあって来ました」
「芹澤」
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