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さらに何か言いたげな久志を完全にスルーした芹澤が、リビングのテーブルに何やら書類と写真を広げた。
「久志さん、いつまでもグダグダ言わないでください。はい、こっちに座って。あ、松本くんはそのままで大丈夫ですよ」
「……芹澤」
突然乱入した芹澤からいいように扱われ、久志の機嫌が急降下していく。
「久志さん、事は一刻を争うんです」
だが芹澤の方が久志よりも一枚も二枚も上手だ。
笑顔を顔に貼り付けた芹澤の迫力に久志は言葉を詰まらせ、おとなしくテーブルの前に腰を下ろした。
「その前に、松本くん」
「はい」
「最近、自宅アパートへ戻りましたか?」
「あ、はい。着替えを取りに一度」
「わかりました。では今後、もし自宅から何か持ち出す場合は、一度私に見せてから持ち帰ってください」
「え?」
「松本くんのアパートにつけていた見張りからの報告で、松本くんの留守中、勝手に侵入した人物がいました」
これがその写真ですとテーブルに広げた写真の中の一枚を、芹澤が夏樹に見せてくれた。
「ちょっと遠目なのでわかりづらいですが、どうやらうちの会社の人間のようです」
「――えっ? もしかして俺の知ってる人? 誰なんですか?」
「お教えしてもいいですが、松本くんは隠し事が苦手なようですし、勤務中に偶然その人物とはち合わせした場合、普通の態度でいられますか?」
「無理だろうな」
「久志さん」
確かに何かあったら夏樹はすぐに顔に出てしまう。家に侵入した人物の正体を聞いてしまって、その人物を会社で見かけたら絶対に挙動不審になる自信がある。
「で、でも、知っておかないと何かあったら……」
「それは大丈夫です。ここと会社との往復、それと社内にいる間、松本くんには山路をつけておきますから」
「そんな……山路さんに悪いです」
「夏樹には俺がつく、あんな熊みたいな男は不要だ」
「何を言っているんですか。久志さんはご自分の仕事があるんですから無理でしょう? 松本くん、心配は要りません。山路は人に役立つことをするのが大好きな男ですから。喜んで引き受けますと言ってました」
「芹澤限定でな」
「……わかりました。山路さんにすみませんと伝えておいてください」
「松本くんは本当にいい子ですね。あなたと一緒に仕事ができるようになって私は幸せ者です」
まるで我が子の成長を喜ぶ親のように、感極まった口調で芹澤が告げた。
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