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「あ、そうそう。松本くんにお土産があったんですよ」
今度は親戚のおばちゃんと化した芹澤が、夏樹の前に某コンビニの袋を差し出した。
「あ、これ! わあ、ありがとうございます!」
「松本くん、それお好きでしょう?」
「はい。毎日一個食べてたんですが、最近はコンビニに寄ることがあまりなくて買えなかったんです。嬉しいです!」
「おい、何だそれは」
「コーヒーゼリーです。俺、ここのコンビニのが好きなんです」
「久志さん、もしかして知らなかったんですか?」
恋人の好物すら知らないのかと勝ち誇ったように目線で告げる芹澤へ、久志はこれからは自分が毎日夏樹のためにコーヒーゼリーを買ってやるのだと心に誓った。
※※※※※
「おーい、夏樹」
「修一」
昼休みに山路と一緒に久しぶりに社員食堂へ夏樹が行くと、四人がけのテーブルの一角で見知った顔が大きく手を振っていた。
ちょうど修一と山下も昼食だったようで、二人と社内で顔を合わせるのは久しぶりだ。
「お疲れー。なんか夏樹と会うの久しぶりだな」
「そうだね。メールと電話はしょっちゅうだけど、修一の顔を見るのは久々だ」
「おう、今のうちに俺の美貌を堪能しとけ――ところで、そちらの人は?」
「あ、こちらは山路さん。秘書課でお世話になってるんだ」
「山路です。一応、秘書課では夏樹の教育係をしています」
山路の大きなガタイに一瞬たじろいだ修一だったが、山路に何か通じるものを感じ取ったのかすぐに打ち解けた。
夏樹限定の世話焼きレーダーが、山路のことを自分と同類だと感知したようだ。
「こんにちは、今村です。山路さんのことは夏樹から色々と聞いていますよ」
「色々? 夏樹、今村くんに俺のことを何と伝えたんだ? 余計なことは言ってないよな」
「余計なことって何ですか。お世話になってる先輩ですって伝えてますよ。ねえ、修一」
「え? そうだったっけ?」
「ちょ、修一!」
わざとらしくとぼける修一に夏樹が噛みつく。
「それで……そちらは?」
「あ、すみません。こちらは山下くんです」
「山下渉といいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく」
夏樹から紹介された山下が山路へ軽く会釈した。
「山路さん、山下はこう見えて、なかなか優秀なんですよ」
「――今村」
「いいじゃん、悪いことでもないし」
「山下くんがどうかしたの?」
「うん。こいつこの間、でっかい契約を取ってきたんだ」
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