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全国展開している駅前の学習塾が、また新たに開校することになり、そこで使用する事務器機から備品まで山下が一括契約してきたそうだ。
「わあ、すごいねえ」
夏樹が素直に感心すると、山下は目を瞠り、そのままふいと夏樹から目を逸らせた。
「お、もしかして山下くんてば照れてる?」
「なっ、誰も照れてなんて……」
「いいからいいから。夏樹にうるうるされながら『すごいねっ』なんて言われたら、俺だってドキドキするって」
両手を胸の前で組んだ修一が、上目使いで山下のことを見つめる。
「修一、俺のマネやめて。なんかやだ。それに俺、修一にすごいねなんて言ったことあったっけ?」
「夏樹ひどいっ! 大親友に向かってそれはないだろっ」
「修一って俺の大親友だったの?」
「夏樹ぃ…………ん? あ、そうか。俺は夏樹のお兄ちゃんだった」
「修一っ」
メールや電話で連絡を取り合っていたとはいえ、久しぶりの親友との掛け合いは楽しかった。
生活環境が変わったり、気が滅入る出来事があったりと、近頃ちょっと精神的にお疲れ気味な夏樹だったが、今日は以前と変わらず明るい修一に少し元気を分けてもらえた気がする。
「今村くんは楽しい男だな」
「はい。あいつ、昔からずっとあんななんですよ。あの明るさを仕事にいかせばもっと営業成績も上がると思うんですよね」
「まあそれは今村くん次第かな。あと……山下くんだったか、彼は今村くんと違って静かなタイプだったな」
「山下は……実を言うと俺もあまりよく知らないんです。山下が他の会社からうちに移ってきて、それからしばらくして俺が秘書課に来たので……」
本来夏樹はとても人懐こい性格だ。たとえ知り合った期間が短くても、ほとんどの場合、修一のように打ち解け仲良くなれる。
だが、夏樹は山下に対しては、薄い壁一枚置いた付き合い方をしていた。
山下は人当たりもいいし、これといって嫌な所もない。それでも夏樹にしては珍しく山下に対して苦手意識があって、相手から話しかけられたり、仕事上必要な場合以外は自分から話しかけたことはなかった。
「まあ、人には得手不得手があるからな」
夏樹の思っていたことを知ってか知らずかそう言うと、山路はいつものように夏樹の頭に手を乗せ、小さな頭をわしわしと豪快に撫でた。
「ちょっと山路さん、そうやってすぐに俺の頭をぐちゃぐちゃにするの止めてください」
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