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「気にするな。ちょうどいい場所にお前の頭があるんだよ」
昼休みの続きとばかりに今度は山路にからかわれる。
だがそんな楽しい時間も、夏樹の机にかかってきた例の無言電話のおかげで長くは続かなかった。
※※※※※
朝から芹澤が、何やら大きな箱を抱えて秘書課の部屋へ入ってきた。
「……おはよう、ございます」
入口の所で箱の角が引っ掛かったのか、バランスを崩した箱と一緒に芹澤の体が傾いた。
「芹澤さん!」
その様子を目敏く見つけた山路が、素晴らしい反応のよさと信じられないほどの素早さで芹澤に駆け寄る。
芹澤と箱は、床すれすれの所で山路の逞しい腕に支えられた。
「大丈夫ですかっ?」
「大丈夫。ありがとう……それにしても、山路くん。君、すごいですね」
山路の右腕に背中を支えられている芹澤が、もう片方の腕でそこそこ大きさと重さのある箱を難なく抱えている山路に目を瞠った。
「これくらい何て事ないです。それより芹澤さん、力仕事があるなら俺を呼んでください。芹澤さんがケガでもしたらどうするんですか」
「ああ、そうですね。次からは山路くんに声をかけます」
「約束ですよ」
はいはいと立ち上がる芹澤の後ろを、箱を抱えた山路が嬉しそうに続く。芹澤の役に立てることが本当に嬉しいようだ。
「山路くん、箱はそこに置いてください」
ちょうど秘書課の部屋の中央にやって来た芹澤が、自分の足元を指差した。
箱の中には長方形の平たい箱や、手のひらに少し余るくらいの大きさの箱がいくつも入っている。
「芹澤さん、これは何ですか?」
夏樹が興味深々な様子で箱の中を覗きながら訊ねた。
「キーボードとマウスです。今度うちから出す予定の試作品なんですが、とりあえず秘書課で使ってみることになりました」
「試作品ですか」
「まずは二週間。二週間後にアンケートをとりますので、実際に使ってみて改善点などがありましたらそこで報告をお願いします」
それぞれの机に、山路がキーボードとマウスの入った箱を配る。
「箱は捨てないでくださいね。山路くん、松本くんにはこちらのキーボードとマウスを」
夏樹だけ他の人とは違う箱を渡された。
「あの、何で俺だけ違うやつなんですか?」
「松本くんのは専務からの指示でちょっと違うタイプのものになりました」
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