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「専務のスケジュールが大幅に変更になった。夏樹、悪いんだけど企画と制作に十四時からの企画会議が十三時からに変更になったと連絡を入れてくれないか……あ、あと営業にも」
「わかりました」
「結城社長のところへも会食中止の連絡を入れないと。あそこの社長、ちょっと苦手なんだよな」
予約していた料亭へキャンセルの連絡を入れようとしていた山路が、受話器を握りながらため息をつく。
「山路さんにも苦手なものがあったんですね。俺、山路さんって何でも出来るから苦手なものってないと思っていました」
そう言う夏樹に山路が乾いた笑いを返す。結城社長とやらがよほど苦手らしい。
「――あ」
「どうした?」
「いえ」
変更通りのスケジュールだと、久志の方が夏樹よりもずいぶん早く帰宅することになる。
どうせ今日も遅くなるのだろうと、冷凍庫にあった豚バラの塊をゆっくり煮詰めようと思っていたが、短時間で出来るものにした方がいいかもしれない。
外で食事の予定があってもあまり食べてこないのか、久志は必ず帰宅してから食事をとるのだ。
さすがに遅い時間になると軽めのほうがいいようだが、それでも夏樹の作ったものを嬉しそうに食べる姿を見るとちょっとしたものでも、作るのに自然と気合いが入ってしまう。
(たしか冷蔵庫に卵がたくさんあったよな。ジャガイモとベーコンのオムレツにしようかな……あれなら久志さんも好きだし)
この短期間の間に、夏樹は久志の好みをすっかり把握していた。どうせ作るなら好きな人には喜んでもらいたい。
毎日の食事に限らず、彼のためにと夏樹が色々と頑張るお陰で、久志のところでお世話になってからというもの、夏樹の主婦スキルはかなり上達した。
芹澤あたりに「いつお嫁に行っても大丈夫ですね」などと言われそうだ。
(お嫁さんって)
つい夏樹の顔が緩んでしまう。
「夏樹、連絡は入れたか?」
「あ、はい。すみません、あとは営業だけです」
久志のことを考えていて、仕事の手が止まっていた。夏樹は両手で自分の頬を軽く叩き気合いを入れ直した。
※※※※※
とあるマンションの一室に久志と芹澤が訪れていた。
リビングである広い部屋の一角にはずらりとパイプハンガーが並べられ、赤やピンク、黄色などカラフルな色調の洋服がぎっしりとかけてある。また、その対面には白い色をした人の手足や頭などのパーツが入った箱が積み上げてあった。
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