後悔しても手遅れです(改稿版)

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「どうぞ。素材と色合いについては先日の打合せ通りとして、全体のフォルムの確認をしてもらってもいいですか? 変更点があれば、遠慮なく仰ってください」  久志が箱の中から茶色い毛布のようなものを取り出す。一見ただの毛布のようだが、久志の手によって広げられたそれは明らかに人の形をしていた。  久志の手で広げられている茶色い人型の毛布は、おそらく夏樹に着せるつもりのものなのだろう。  細部まで細かくチェックしている久志の姿に、思わず頭痛を覚えた芹澤がこめかみに手を当てた。  野添はフィギュアの造形作家とは別に、コスプレの衣装や着ぐるみなどの創作もしており、特殊なものほどその完成度は高い。なんと某戦隊ヒーローものの悪役コスチュームや映画の特殊衣装なども手掛けているのだ。 「あの……久志さん、それは松本くんに着せようと?」 「ああ。あのどんぐりの出来がなかなかだったから、どうしても衣装も合わせたくなったんだよ」 「――ああ、そうなんですね」  久志の妙に高いテンションに、芹澤にはかける言葉が見つからない。 「紺野さん、いかがでしょうか」 「そうだな……袖はこのままでいいが、足元を短めにした方がいいな」 「どのくらいにしますか?」 「膝丈、膝小僧が見えるくらいかな」  久志が首を傾げながら茶色い人型毛布の足元を見ている。野添も普段の得体の知れない変人ぶりはなりを潜め、真面目な顔で久志の指示を聞いている。 「頭はどうでしょうか」 「悪くはないが、いまひとつ可愛さに欠ける」 「もう少し耳を大きめにしてみましょうか」 「そうだな。耳には少し丸みをもたせて……もうちょっとコロンとした感じにはできないか?」 「うーん……出来ないこともないですが、重みで耳が倒れそうですね……」  耳に芯を入れたらどうかとか、やっぱりあまり厚みはないほうがいいのではとか、大人の男が二人、ケモミミの形について真剣に議論している。 「久志さん」 「何だ?」 「遅くなるようでしたら、どこか食事の予約をとりましょうか?」 「そうだな。野添くんも一緒にどうだ?」 「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」  久志に軽く頭を下げた野添が、芹澤の方を見て口許だけでニヤリと笑う。野添と偶然目があってしまった芹澤が苦虫を噛み潰したような顔をした。 「わかりました。では、久志さんと野添くんの二名の予約で。お店はいつもの料亭でいいですか?」
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