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だが、久志が帰ってこないなら下ごしらえを済ませても意味がない。
二人分の食事の準備にすっかり馴染んでしまい、自分ひとり分の食事を作る気も起きず、夏樹はリビングのソファに体を投げ出した。
「どうしようか……ジャガイモもベーコンも明日の朝ごはん用にすればいいとして――」
出張なのは別として、同居するようになって久志が外泊するのは初めてだ。どんなに遅くなっても必ず帰ってきていたのに、今日は可愛らしくて気の合う相手と過ごすらしい。
自分のことをあれほど好きだ好きだと言っていたのは、ただの暇潰しだったのかもしれない。晩熟な夏樹の反応が面白くて相手をしていただけなのかも。
久志は今夜その可愛らしい相手と何をするのだろうか。夏樹の体に触れたように、その相手にも触れるのだろうか。
ソファに体を横たえたまま、夏樹は思わずため息を洩らした。
「コンビニで何か買ってこよう」
このまま久志のことばかりぐるぐると考えても、頭に思い浮かぶのは嫌な想像ばかりだ。
夏樹はソファから立ち上がり、財布と携帯を握った。
コンビニに来るのも久しぶりだ。久志の所へやって来てからは全然立ち寄っていない。
ちょっと来なかった間に新発売のお菓子など初めて見るものもいくつかあり、あれもこれもと選んでいるうちに夏樹の持つカゴの中はお菓子でいっぱいになってしまった。
「――あった」
レジ横にあるデザート類が並ぶ陳列棚で目当てのものを見つけると、さっそくそれを二つカゴの中に入れる。
夏樹の好きな某コンビニ限定のコーヒーゼリーだ。ゼリー自体が少し柔らかめにできており、口の中に入れると舌で潰さなくてもスッと溶けてしまう。
甘さ控えめだが、ゼリーの表面を覆っているクリームと一緒に食べると、その美味しさにスプーンを持つ手が止まらなくなる。
「これ、ここのコンビニにしか売ってないし……どうしよ、もう一個買っておこうかな」
どうしようと言いながら、もうひとつカゴに入れる。ちなみに夏樹が今来ているコンビニは、夏樹の部屋の近くの店だ。
芹澤から自宅周辺を一人でうろつかないようにと言われていたが、部屋に侵入されたのも一度だけだし、その時だって特にこれといった被害はなかった。
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