後悔しても手遅れです(改稿版)

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 清算を済ませ、店から出た所で夏樹が山下に言った。  夏樹は山下の返事を待たずコンビニの中へ戻ると、ちょうど山下から死角になる場所で携帯を取り出した。 『はい?』 「あ、修一?」 『おう夏樹か。何、どうした?』 「今日なんだけどさ、山下とご飯食べる約束した?」 『したけど。何で?』 「いや、何でもない。それじゃまた後で」 『後で? え、夏樹――』  山下が修一と夕食をとる約束をしたのは間違いないらしい。  身を隠した陳列棚の陰から夏樹がひょいと顔を出すと、山下と目が合ってしまった。山下は夏樹と目が合うとにっこりと笑い掛けてきたが、夏樹は笑い返さず出した顔を引っ込めた。 (大丈夫、だよな)  夏樹が山下の部屋へ行くことを了承してからの彼の様子に引っ掛かりを感じ、念のため修一に連絡を入れてみたのだ。  間違いなく後から修一が合流することを確認した夏樹は、ほっと息を吐くとコーヒーゼリーをもうひとつ買って店の外から夏樹の様子を窺っている山下の所へと急いだ。  コンビニから歩いて十分もかからない場所に山下が住んでいるマンションはあった。まだ真新しい八階建てで、三階でエレベーターを降りて一番奥が山下の部屋だ。  コンビを出てからは、さすがに山下も夏樹の手首から手を離した。それでもマンションまでの道中、隣を歩く山下の夏樹との距離はとても近くて、夏樹がさりげなく山下と距離を取っても、気づいたらすぐ側に山下がいる。  ただ隣を歩くだけだ。あからさまに避けるのもかえって山下のことを意識しているようで、夏樹はできるだけ山下の存在を気にしないように努めた。 「散らかってて悪いんだけど」 「おじゃまします……」  玄関ドアを片手で押さえている山下の前を、夏樹が遠慮がちに通る。夏樹が中に入ると、後に続いた山下がドアを閉め鍵をかけた。  重いスチール製のドアが閉まる音と、カチャリと鍵の閉まる音に夏樹の体が無意識に強張る。肩をすくめたまま、夏樹はきょろきょろと辺りの様子を窺った。  玄関を入ると短い廊下があり、廊下の右手にドア、左手がトイレと浴室になっている。 「松本くん、そのまま突き当たりの部屋」 「あ、うん」  山下に言われるまま夏樹が廊下の突き当たりの部屋に入ると、十畳ほどのリビングと一人暮らしにしては立派なキッチンがあった。
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