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『可愛い子には旅をさせよ。』
なんて、誰が最初に言ったのかしら。
意味だって大してわかってないし、要するに世間を知ってこいって事でしょう?
私にとっては良い迷惑…いえ、悪い迷惑よ。
『箱入り娘』
学校で私はそう呼ばれている。
確かに家は誰もが知るようなお金持ちだし?
私の父には誰もがこうべを垂れる。
でも、そんな…父親の仕草なんかで、父の生き方で私の名前が呼ばれないのは納得いかないわ。
私には〈綾小路円〉って名前がちゃんとある。
でも、誰も私をそうは呼ばない。
『お嬢様』
『お姉様』
『アイツ』
家族は別よ?父はちゃんと『まどか』って呼ぶし、母もそう呼ぶ。
だから…
ちゃんと名前を呼んでくれる、私を私として見てくれる家族から『旅に出ろ』なんて言われた時にはショックだったわ。
「綾小路家は代々、元服(15才)を迎えた男女には旅をさせる規則がある。それはまどか、お前も例外ではない。」
だって。
世間を知りなさいだって。
世の中を見てきなさいだって。
まるで私が何も知らないみたいじゃない。
「お嬢ちゃん、乗るのかい?乗らないのかい?」
「乗る、乗らないで言えば私は乗る方よ。」
「だったらさっさと乗ってくれ。出発時間はとうに過ぎているんだ。」
私はたまたま歩いていた田舎道で、たまたまあった屋根付きの椅子に腰掛け、たまたま休ませてもらっていただけだ。
日傘は邪魔だし、ドレスはこの日差しには暑すぎるし、ヒールは歩き辛いし。
目的地は無いのだけれど、乗せてくれるなら甘えましょう。
「ちょっとお嬢ちゃん、整理券を取っておくれ。」
「せいりけん?」
これかしら…
機械から出てきた、小さい紙には『15』と書かれている。
それだけ?
せいりけん、とやらを手に取る私を確認した男性は、大きなハンドルを手にとり後方確認をした。
私の専属運転手みたいな正装を見るからに、父が手配した使用人ね?
なんだかんだ言って甘いんだから…
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