冗談じゃない

2/12
前へ
/12ページ
次へ
『可愛い子には旅をさせよ。』 なんて、誰が最初に言ったのかしら。 意味だって大してわかってないし、要するに世間を知ってこいって事でしょう? 私にとっては良い迷惑…いえ、悪い迷惑よ。 『箱入り娘』 学校で私はそう呼ばれている。 確かに家は誰もが知るようなお金持ちだし? 私の父には誰もがこうべを垂れる。 でも、そんな…父親の仕草なんかで、父の生き方で私の名前が呼ばれないのは納得いかないわ。 私には〈綾小路円〉って名前がちゃんとある。 でも、誰も私をそうは呼ばない。 『お嬢様』 『お姉様』 『アイツ』 家族は別よ?父はちゃんと『まどか』って呼ぶし、母もそう呼ぶ。 だから… ちゃんと名前を呼んでくれる、私を私として見てくれる家族から『旅に出ろ』なんて言われた時にはショックだったわ。 「綾小路家は代々、元服(15才)を迎えた男女には旅をさせる規則がある。それはまどか、お前も例外ではない。」 だって。 世間を知りなさいだって。 世の中を見てきなさいだって。 まるで私が何も知らないみたいじゃない。 「お嬢ちゃん、乗るのかい?乗らないのかい?」 「乗る、乗らないで言えば私は乗る方よ。」 「だったらさっさと乗ってくれ。出発時間はとうに過ぎているんだ。」 私はたまたま歩いていた田舎道で、たまたまあった屋根付きの椅子に腰掛け、たまたま休ませてもらっていただけだ。 日傘は邪魔だし、ドレスはこの日差しには暑すぎるし、ヒールは歩き辛いし。 目的地は無いのだけれど、乗せてくれるなら甘えましょう。 「ちょっとお嬢ちゃん、整理券を取っておくれ。」 「せいりけん?」 これかしら… 機械から出てきた、小さい紙には『15』と書かれている。 それだけ? せいりけん、とやらを手に取る私を確認した男性は、大きなハンドルを手にとり後方確認をした。 私の専属運転手みたいな正装を見るからに、父が手配した使用人ね? なんだかんだ言って甘いんだから…
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加