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「ご機嫌よう。」
「あらあら、ご機嫌よう。」
私が座る前に出発するものだから、少しふらついてしまったわ。顔覚えたから、旅が終わったら父に言ってクビにしてやるわ。
手すりでなんとかバランスを支えながら、目があったご婦人と会釈を交わす。
が、このご婦人は…
なんというか、その…はっきり言って汚いわね。
土が着いた白い生地を頭に巻いて、腕まであるエプロンですら汚れている。
しかも片手にはザルを持ち、土の付いた野菜が無造作に並べられている。
(一番後ろが広くて座りやすそうね)
「固っ!!」
何この…ソファー?
え?ソファー…?
粗ファー(毛皮)ってこと?
ま、まぁいいわ…
さて、このまま舗装もされてない道のりを、ただただ畑を見ながら過ごすのも良いのだけど…長い旅にするつもりはないわ。
今回の目的…というか、目的地を確認しましょう。
私は今、昔父がお世話になった…友人の家に向かっているわ。
渡されたのは一枚の地図のみ。
しかも航空写真ってなんなのよ。
地図ってか写真じゃないの。
でも、さすがにノーヒントってわけじゃないわ。
『綻村』(ほころびむら)
そこが私の目的地で、そこにたどり着くのが目的。
あとはまあ…一週間過ごせばいいだけ。
(一週間もキャビアなしで生きられるかしら…)
「次は~綻村、綻村です。」
「ふぇ!」
つい驚いてしまったわ。
車の中でアナウンスとは…なかなか気が利いてるわね。
止まったら降りればいいのよね、こんなの楽勝よ。
「ご機嫌よう」
「お嬢ちゃん…お金は?」
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