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「お金・・・?お金といったの?あなたが?私に?」
「それ以外に誰がいるんだい?確かお嬢ちゃんは15番だったはずだから・・・320円だよ。乗るとき取っただろ?その整理券と一緒にお金をここの箱に入れるんだ。わかったかい?」
(何を言っているの、この男。使用人ごときが私に向かって金を払えですって?父から給料をもらっているくせに、まだもらう気でいるの?)
と、お金を出す素振りもなく立ち尽くし、呆然と運転手の顔を見続ける私を見ていられなかったのか・・・
「この子はわしの孫でねぇ・・・タケさんや、ここはわしが払うから許してやってくれないかい?この子は都会育ちでバスを知らないんだよ。」
さっきの野菜を持ったおばあさんが割って入ってきた。
「まぁ・・・トメさんがそう言うなら・・・」
チャリンチャリン
「さ、これでいい。わしもここで降りるから、先に出ておくれ。」
「え・・・えぇ・・・」
バスは何事もなく立ち去り、小さな停留所には私とおばあさんが二人きり、ポツンと取り残された。降りたというよりは、降ろされた・・・といっても過言ではないほどの静けさだった。
「あんた、綾小路家の人間だね?」
「いかにも、私は綾小路鷹之介の娘の綾小路円よ。」
「そうかいそうかい、鷹坊やの・・・時間が経つのは早いねぇ。」
「父を知っていらっしゃるの?」
「25年前位・・・だったかねぇ、お前さんと同じようにこのバスに乗り、同じように助けてやったのさ。」
「同じように助けたですって?失礼ですがおばあ様、私・・・助けられた覚えがなくってよ?」
「おやおや、鷹坊やと同じこと言っとるよ。まぁいい、家へ来なさい。そのつもりだったのだろう?」
と、彼女は目の前にある山の中腹あたりを指差した。その先には一件の日本家屋が建っている。
「いえ、結構。」
一瞬で登らなくてはならない事を理解した私はそれを拒否した。
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