夏休みのある日

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「あちぃー」 うるさいくらいにミンミンと鳴くセミ。 真っ青な空から照りつける白い太陽。 大きなリュックを背負った背中は汗でびしょ濡れになっていた。 ああ、もう!! これだから嫌なんだよ!! 旅行は嫌なんだよ!! 2泊分の着替えの下着や靴下、Tシャツ。 旅館の浴衣は、寝ている間にはだけておなかを冷やすので、寝るときのTシャツと短パン。 化粧水に乳液に、洗顔フォーム。それとメイク落としも。 旅館の歯ブラシと歯磨き粉は、なんだか物足りないので、それも。 ドライヤーは備え付けられていることが多いけど、ヘアアイロンはまずないので、それも。 いつもの化粧ポーチももちろんだし。日焼け止めも。ティッシュも。 コンタクトレンズに、念のためにメガネも。 汗をかくだろうから、タオルも数枚。 大きなリュックにはそれらがパンパンに入っていて、 肩がものすごく凝るし、汗でびしょびしょだし、足は棒のようだし。 もう最悪!! これだけ準備しても、いざとなると、 あーあれも持ってきたらよかったなあ。とかなるし。 もう、本当に、嫌!! トイレに行きたくなってもトイレはどこにでもあるわけじゃなくてすぐに行けないし。 身体はこんなにへとへとになっていても、 頭が冴えているので、夜はなかなか眠れないし。 2泊3日の旅行が終わり、家につくと、家族のみんながいう。 「はあ、やっぱり家が一番落ち着くねえ」 その言葉を聞くと怒りが込み上げてくる。 ほら、わたしは最初っから旅行なんて行きたくないって、訴えてたじゃないか。 それでも、家族で行くんだから。楽しく行きましょうって。 わたしも、行ったら行ったで楽しいかな。と少しは思うんだけれど、 いつも、思う。ああ、失敗した。ひとりで留守番している方がましだった。 わたしは、ひとり部屋に閉じこもって、ベッドの上に寝そべり、本を開く。 こうやってベッドの上にいるだけで、いろんな体験ができる。どこにだって行ける。 そして、わたしは、旅に出た。 つまんない日常から解き放たれるために。 だから旅に出た。 ここから本当の旅に出るんだ。
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