第1章 わがまま娘

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猫は、シャボン玉に手が届かないので、背を向けて去って行った。 シャボン玉は、風に乗ってどんどん上昇して行く。 遠くから、犬が怒鳴るように吠えてる。 フン、恐くないもんね。 町が小さく見える頃、シャボン玉には太陽の光が容赦なく照り付け、眩しさのあまり気が遠のいた。 どれくらいの時間が経ったのだろう。辺りは薄暗く、どこをどう流されて来たのか、海辺まで来ていた。 シャボン玉は、揺れる海に引き付けられるように、ゆっくりと下りて行き、海の中にス―ッと入った。 奥へ行くほど暗くなっていく。 そこに、大きな魚の顔。一瞬ギョッとした。海底に着いたようだ。 魚は、こちらを見ている。 「あんまり見つめると、あたしのようになっちゃうよ」と言ってやった。あたしは半分諦めていた。 でも、いつまでこうしてるんだろう?一生このまま……? 不安が込み上げ、涙が溢れてきた。 魚が、大きな顔を近付けて来る。大きすぎて不気味。 「オレと入れ替わろう」 ええっ!? あんた、こうなりたいの!? 話を聞くと、彼は病気らしい。 「今はまだ、きれいなウロコだけど、白いカビが生えて、醜い姿になって死んでしまうんだ」 「オレは、醜い姿を誰にも見せたくない。美しい姿のままで一生を終わらせたい。入れ替わろう」 そして、こちらをジッと見つめるの。 その時、海底の砂の中から、大きな気泡が出て来た。 「眠った海底が、イビキをかいているんだ」 あたしと魚は、気泡の中に入り、海面へと向かった。 魚は、あたしを見つめ、シャボン玉の中に鼻先がぬうっと入って来て、つぶれそうになったとき、入れ替わり、あたしの身は自由になった。 魚は、「海岸に着いたら、このシャボン玉を石にぶつけて割ってくれ」と言った。
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