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将来のことなんて、考えたこともなかった。ただ、今をどう過ごすかでいっぱいいっぱいだったような気がするし、単に何も考えていないだけだったような気もした。もしくは、将来に希望を見出せずに考えることをやめてしまったとか。どれも僕の本意であるような気もするし、そうでない気もする。
漠然としたものはあった。なんとなく大学に行って、なんとなく就職活動して、なんとなく仕事をする……。しかしはっきりとした将来のビジョンが見えてこない。
理系の勉強はそこそこできた。だから、授業のコース選択も理系のほうに進んだし、その流れで進学クラスにも入れられた。
だが、大学で何を学ぶ? 理系というのだから、数学? 物理? 化学の分野かもしれない。応用的なところだったら、情報系や工学系だろうか。どれもパッとするものではなかった。実際にやってみたら案外、なんてこともあるかもしれないが、大量にある分野からひとつを選び、それが良かったと思えるものに出会える確率はどれほどだろうか。僕には無謀な賭けにしか思えなかった。
刻一刻とせまるタイムリミットに、多少は焦る気持ちもある。しかし、どこかで何とかなるのではないかと思っている自分もいる。
僕はどうすればいい?
「ねえ、今日はどうする? もうすこし勉強してく?」
葉月の声に、呼び戻された。そうだ。今は悩んでいる暇などないのだ。とにかく勉強して学力を上げておかなくては。
「あ、ああ。勉強はするけど……続きは家でやるよ。大体はやり方も分かったし、ありがとうな。今日中に、この分は終わらせるから」
鞄の中からテキストを取り出し、『この分』と言った箇所を指し示した。
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