人形

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   「はー」  ようやく今日の業務を終わらせた沼沢がため息をつく。    「今日も残業3時間越え。帰ったら風呂入って飯食って寝るだけ。そしてまた仕事。あーあ、空しいねえ」  沼沢と残業していた川淵が、愚痴をこぼす。  「全くだ。おい見ろ、テツのやつ、まだ続けてるぞ」  沼沢が驚いて言う。  テツが、書類に目を通して印鑑を押していた。  テツは、書類仕事のベテランで、その仕事の早さから「印鑑のテツ」と呼ばれていた。  ただ最近は働きすぎて、少し上司からも心配されるくらいだった。  「もういいよ、テツ。残りは明日にしよう。じゃないと倒れちまうよ」  川淵がテツの肩に手を置く。  「ひっ」  と、突然その手を引っ込めた。  「どうした川淵?」  「目の焦点が合ってない。印鑑も適当な場所に押してる。こいつ、発狂してる」
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