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もちろん僕だってそうだ。
「料理がね、とっても上手なんだ」
「へぇ。」
そう言って隣人は納得したような声を出したが顔は納得していない。
きっとそんなものだ。人によって好みは多種多様。
だから基準だって、もちろん違う。
違うからこそ見つけられた時に嬉しいんだ。
「あ、早く報告に行かなくちゃ」
「そうだね。誰かに取られちゃうよ」
申込書を印刷し隣人に手を振った僕は受付へと急いだ。
「すみませーん。決まりました。この人でお願いします。」
カウンターの中から、白い髭に白髪、白い服を纏った白一色のおじさんがゆっくりと出てきた。
「はいはい。無事に決まって良かったね。昔は実際に見に行ったものだが、これだけ人が増えちゃそういうわけにもいかないからね。」
書類に目を通しながら、おじさんは話続けた。
「まぁこういうシステムになって、私は楽させてもらってるんだけどね。ところで、この人を選んだ理由は?」
僕は、さっきと同じ答えを言った。
「はい、料理が上手そうだからです」
「でも失敗する日もあるだろうし、ある日まったく作れなくなる日が来るかもしれないよ。それでもいいの?」
長くて白い髭を触りながらおじさんが聞いてきた
「はい。大丈夫です。たくさん料理を教えてもらって、この人が作れなくなったら僕が作ります」
おじさんは満足そうに笑った
「そうか、色んなことが起こるだろうが頑張ってな。問題ないから、早速行っていいよ」
おじさんがそう言ってボタンを押すと扉が出てきた。
この扉を一歩出たらここでの記憶どころか生きていく為の基本的なことすらできなくなるのだ。
多少の恐怖と緊張を感じながらも僕は、その一歩を踏み出した。
だって僕が選んだ女性は、とても素敵な人だと知っているから。一緒に頑張れるって信じてるよ。
一緒に歩いていこうね、ママ。
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