なつのかけら

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夏休みの間は祖父母の家で過ごす事が、我が家の定番になっていた。 両親が共働きで、兄弟のいない私は、完全なる鍵っ子で、帰っても誰もいないリビングで1人、コンビニのお弁当を食べる毎日だった。 せめて夏休みくらいは温かい家庭料理をと、母親なりに気を使ったつもりなのだろう。 1学期の終業式が終わると、約1か月分の荷物を積んで、母親が故郷である町まで車を走らせるのだ。 母の故郷は、周りを山で囲まれた小さな田舎町だった。山間に集落がぽつぽつと並び、その先には内海が見える。 波は穏やかで、遊泳は禁止されてはいないが、小さすぎるので、観光客はよりつかず、地元の子供たちが、夏休みの間に海水浴を楽しむ場所のようだ。 祖父母の家のベランダから、通りを挟んで、碧色に広がる海を眺めていると、近所の子供たちが水着姿で浜辺を駆けているのが見えた。 何もない、退屈な町だった。 祖父母の家には、母親の姉夫婦が同居していた。 叔母は専業主婦で、家の外でバリバリと働く母親と比べると、温厚だった。優しくて、親元を離れて1人の私に気を使ってくれる。
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