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一般の家庭なら、高校生の娘とこんな時間になっても連絡がつかないなんて事があったら、警察に行くなり、友達の家に片っ端から電話をかけたりするだろう。
それに香織は大金持ちの社長令嬢だ。
もしこの場に父親がいたのなら大事になっていたのは間違いない。
もちろん静江も 〝もしかしたら誘拐されたのかもしれない……〟 なんて事が頭をよぎったので、早急に母親に連絡をした。
しかし、母親の言葉は
「誘拐なんてマスコミに騒がれたら会社のイメージが崩れるじゃないっ! 警察には絶対連絡しないでちょうだいっ! もちろん主人にもよっ! 友達の家に電話するなんて冗談じゃないわっ! 何言われるか分かったもんじゃないっ!」
と、冷たいものだった。
所詮、娘の事より世間体の方が大事なのだ。
続けて母親は
「まぁ香織も年頃の娘ですもの……夜遊びぐらいするでしょ。彼氏も出来たみたいだしね。親が家にいないことを良いことに、ホント困った子だわ」
と笑いながら静江に言った。
自分の事は棚にあげて、いい気なものだ。
香織は
「ちょっと疲れたからもう寝るね。おやすみなさい、しずさん」
と言うと、二階の寝室に向かった。
「おやすみなさい」
静江の声が階段の下から聞こえる。
それはいつもと変わらぬ心地よい声だった。
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