第1章

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もちろん。このからくりに気が付いている生徒もいるだろう。でも誰も訴えて出てくることはない。そんなことをする意味がないからだ。虚構の時庭心という人物が不幸になっているからと言って誰が不幸になる? 誰に迷惑が掛かる? 学校の評判ぐらいだ。しかし、実際そんな噂で学校の評判が下がるほど世間は馬鹿じゃないさ。それに学校は承知の上だ。気づいている奴は気づいたまま騙されているし、気が付いていない奴もただ騙されている。それだけの事さ。 くくく。まるで人間が嫌いになりましたみたいな顔をしているな。そんな顔をするなよ。下を見なければ安心できなくて、人の不幸を見るのが嫌いじゃなくて、簡単に集団に飲み込まれるような心を持っている。そんな弱い人間。いいじゃないか。弱くて。いいじゃないか最低で。私は好きだ。そういう人間が。いかにも人間らしくていいじゃないか。 弱いから人を助けようとするんだろう? 最低を知っているから人を思いやれるんだろう?  絶望を知っているから人は希望を持てるんだ。  実に夢のある話だと思わないか?   なぁ? 作佐部結月さん? 
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