ノルニルの木片

2/15
前へ
/15ページ
次へ
 室町は、机の上に足を投げ出し、資料に目を通していた。 机の上は資料やら、飲み終えた紙コップやらで散らかり放題だ。 彼は今、小学生連続行方不明事件を追っていた。 刑事だ。 この半年で、行方不明になった少年少女は8人になる。 どの事件も同じ人間が犯人のように思えるが、もしかしたら別の事件も絡んでいるのかもしれない。 とにかく、どれも全部金目当てで無いことは確かだ。脅迫電話がかかってくるわけでもなく、貧しい家の子もいた。 「おい、室町!電話!」 向こうの方から同僚の上田が叫んだ。 「誰?」 「いつもの」 「あぁ…」 軽くため息をついた。 いつも、だ。3日に一度のペースで室町に電話をかけてくる男がいる。 「どうする?」 「あぁ、出るよ」 頭がおかしい男だ。 最初は3ヶ月位前、自分が行方不明の子供たちを殺したと電話してきた。 その向井という男の家に行った。 すると、挙句に自分の子供も殺してしまったと言い出したのだ。 だが、子供はピンピンしていて、念のために行方不明の子供達がいなくなった時刻のアリバイを確認したが、経営しているレストランの厨房でフライパンを振っていた。それは奥さんと、従業員も一緒にいるので、彼のアリバイは立証済みだ。 なのに、だ。 なのに今日も電話をかけて来る。 電話に出た。 「はい」 「室町さん…向井です」 「あぁ、どうしましたか?」 「僕、ホントに子供を殺してしまったんです」 彼は泣いていた。 「今日は、お店は?今ランチタイムなんじゃないんですか?」 「今日は…休ませてもらいました」 「そうですか…」 「僕を捕まえて下さい。お願いです。僕はこのままだと、今度また何をするかわからない…」 「証拠はありますか?」 向井は黙って泣いているだけだ。 「ゆっくりお休みされてはいかがですか?」 「本当に…子供を殺して、埋めたんです」 「どこに?」 「山とか…です」 「どこの山ですか?」 この会話は何度かしている。 何度聞いてもどこの山かは言わない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加