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「今日は暑いなー」
あと数日来れば来週から夏休みという、もっとも勉強に身が入らない時期。
どうやら休みモードに入っているのは大人も一緒らしい。
我がクラスの国語の教科担当でもあり、担任でもある教師は生徒よりもやる気がなかった。
黒板にデカデカと『読書』と書いたっきり、椅子に座って団扇で仰いで過ごしている。
教師がそんな様子では生徒たちも右に倣えで寝ている者が多数だ。
真面目な生徒たちは真剣に本を読んでいるが、大半は寝ていたり雑誌を読んでいたりしている。
俺だって寝たい。
昨日の夜も蒸し暑く、蚊の鳴く音になかなか眠れず朝の四時まで格闘してやっと寝れたのだ。
正直眠い。眠すぎるぐらいだ。
なのに……
「あっ……」
「こら、寝ちゃダメだろ柿崎」
少しでも頭を下げようものなら後ろから脇腹をつついてくる俺の大嫌いな奴。
脇腹は俺の弱点だったりする。
読書中なので教室はしーんとしているから俺の声が周りに罅く。
俺が声を出す度、横の奴から視線を感じる。
横の奴、出席番号11番の下田君は真面目なのだ。
だから俺がうるさいんだろう。
でも声を出すのは俺の所為じゃないのに……。
ギリギリまで椅子を引いて奴との距離を広くするが、身長も高い奴は手も長い。
やすやすと捕まり後ろに下げられてしまう。
「ほら次のページ行こうよ」
俺の後ろから俺が読んでいた教科書を読んでいたのか、俺の大嫌いな奴は俺に指示を出す。
っていうか近いから!
ねぇどうして誰もこの距離感に疑問を持たないの?
それはみんな寝てたり読書してたりで、視線を上にあげてないからなんだけど……
奴の声は低いから小さくしゃべれば下田君にも聞こえないらしい。
ずるい声だ。
「ちゃんと読まなきゃダメだろ、早く次行ってくれないとイタズラしちゃうよ?」
イタズラと言われ、先日の美術室での記憶がよみがえる。
今あんなのをこんなところでやられたら……
俺の必死な様子を感じ取ったのか、外の風景を眺めていた担任が俺を視界に映す。
それと同時に後ろの大嫌いな奴は少し距離を取る。
卑怯者め……。
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