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────駅のホーム。昼間だからか人影はまばら。その端に立つ一つの人影。彼は紺のパーカ、咥え煙草、荷物は小さいショルダーバッグ。────
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何してんだろ俺。早く遠くへ行っちゃいたいのに、この駅、急行止まんねえし本数少ない。
ホームの壁に貼られた何か古ぼけた広告。炭酸飲料か何かか? 青春、の文字。そういえば、いつだったか誰かに言われたことがある。おまえって理想の青春してるよな。
理想の青春? まあそうかもだって俺モテたしそりゃあもうとっかえひっかえしてたわけよ。
だけど家のことはあんまりうまくいかなかった。中学卒業してからはほとんどろくに寄り付かなかったし。友達っていうか恋人っていうかまあよくわかんねえけど女のところを点々と渡り歩いてた。
そういうときにあいつが、俺の家に住めばとか言ったわけ。あいつっていうのは中学時代のクラスメイトで、当時はバンドとか組んでた。へたくそなただのガキの遊びだったけど。俺は音楽とかそんなに好きなわけでもなくて、だけどあいつが誘ったから。別に嫌でもなかったし。そうだなあいつのことはわりと好きだったよ。
卒業した後は連絡も取り合わなかったし会うこともなかったんだけどあるとき偶然再会してさ。それで声かけられて、俺はあいつの家に居候し始めたんだ。他に行くとこもなくてそん時正直困ってたから。あいつの家は居心地がよかったんだ。何も気にしなくていいし。俺は安心して眠れたんだよ。
だけど、もうそれも昨日で終わった。あいつは俺を殴ったから。俺はやり返したりしなかった。何かもうどうでもいいやって。それで俺は荷物まとめて、こうして遠くへ行こうとしてるわけ。
あいつも結局同じだったんだよ。何と? とてつもなくくだんねえのにしつこく居座り続ける俺の中のトラウマ的な何かと。
何か俺がだらしないのが気に入らないんだと。
そんなの今更言われたって困るよ。俺ずっとそうだしちゃんとしたことなんて一度もないんだからさ。
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