3/8世界

12/15
前へ
/15ページ
次へ
「クッキー、この食べ物のせいですか?」 「違うと思います、いたって普通のクッキーですから」 優しく笑ってタオルをくれた。 それを受け取ると彼女は訊いた。 「貴男は本当に異星人なのですね」 柔らかく花の香りがするタオル、彼女と一緒だった。 「そうです。 この星の住人は賢くて、おおらかで、優しい、貴女も」 彼女は僕の前のソファーに座った、僕は話を続けた。 「僕の故郷は遠く、あまりにも永い旅をしてきたので、現時間において多分両親も友達も知人は皆死んでいる事でしょう、僕は独りぼっちなんだと、ふと気づいたら泣けてしまいました」 「もう、帰る事は出来ないのですか」 「宇宙船はまだ静止軌道上にあります、でも復路はさらに時間がかかります、下手すると、故郷の星が終わってしまう程の時間が」 「なんで、そんな旅をしてまでこの星に」 「大義名分はあったのですが、本当は僕の身勝手な希望、どうしても欲しい目的がありました」 「それは?」 「それは、、、」 僕は口を噤んでしまった、彼女もその後黙ったままだった。 もしかしたらこの星に来たこと、この旅自体が失敗だったのかもしれない、どこに行こうと僕は僕のままで、人は決して変わる事などできはしないのだと思った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加