鬼燈を掲げ

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少女は少しぎこちなく、何か尋ねようと思って口を開く。 「あの、貴方は?」 「旅の者です」 男は言いながら食器に溢れた棚から干し肉を引っ張りだし、少女に渡した。 「かくいう貴方は一体誰で、何者に何故追われていたのですか?」 少女は干し肉を手に男を見上げ、それから少し目を逸らした。赤縁の窓の奥に洋風街の灯りが見える。 「私は隠喰の一族で、古くは由緒ある日吉の一族です。ただ、直系の母が義父に食われ、私も......」 男は暗い瞳で川を見つめ、その白い唇の端が少し吊った。 隠喰一族。 男は口の中で言葉を転がした。 「夜はここで明かした方が良い。とはいえ、ここで出会ったのも何かの運です。一つ、私の話を聞いてくれませんか?」 男は座布団を引き出し、少女に渡し、自分も別のに安坐をかいた。 「どんな話ですか?」 「酒呑童子を知っていますか?」 少女は首を傾げた。 男は若干目を細めたが、微かに笑った。 「古い鬼の名です」 そう前置きして男は語り出した。 まるで長らく見えなかった獲物を見つけた鷹のような瞳で。
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