鬼燈を掲げ

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寺の裏で彼は恋文を焼いた。酒を飲みながら岩に座り、焦げた文を見つめた。 それが祟ったのだ。 不意に彼の額が疼いた。 焼けるように頭骨が痛い。 髪は乱れ、息は荒れた。 焼いた鉄を眼球の裏から押し付けるような痛みで、されど、やがてその痛みも少しずつ治っていく。 頭が重い。 彼は何か訳が分からず、そっと額に手をやった。鉄のような冷たい感触。 二振りの黒角がそこから生えていた。 彼は声を出さなかった。 出せば僧に見つかるからである。 そうして、酒瓢箪を引きずり、まだ誰も起きない朝頃に彼は密か寺を出た。 この時、一年経って齢十五である。 三日三晩、彼は世を忍んで歩き続けた。 四日目の晩は雪が降っていた。 いよいよ、彼の膝は地についた。 動くのも億劫だ。 畦道に横になり、冬空を見上げる。 黒い天鵞絨の夜と白い砂の星がそこにあった。灰色の雲が霞のように立っており、星屑のような雪の粉が落ちてくる。 良い晩だ......。 手に持つ酒瓢箪は乾いてしまっている。 彼は目を閉じた。 もう酒を飲めないのが残念であった。 ふと、消えゆく意識の中に何かの鳴き声が忍び入って来た。 彼は目を開けた。 泣き声は赤子のものである。 彼は震える身体に熱を宿し、声を頼りに必死の思いで地を這った。 草葉の陰にその児子がいた。 泣きむせていた。 彼の命は食物を見つけ脈打った。 食おう。 この赤子を食おう。 本能が彼の指を動かす。
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