第一章 麗しき少女よ、汝の正体は

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なのに。 だというのに。 そもそも迎撃や回避を行うこともなかった。真っ直ぐ、堂々と、歩く。当然必殺の閃光は姫川楓に直撃するが、当然のように無傷で前へと進むのだ。 「な、ぁ……!?」 「へいへい、道化師さんよお。無意味に人を傷つけてはいけませんって常識でしょーに」 ただ歩く。それのみ。 どんな障害も無抵抗で粉砕する力の極致。 姫川楓はただ歩き、当たり前のように距離を詰めた。目と鼻の先のピエロへ両手を伸ばし、腰を抱きしめるように捉える。 「し、ま……っ!?」 「こーゆーのって殴られたら誰だって痛いんだってことを実感しないと、己の行為を反省しないってのが持論でねー。ってなわけでちょっくら反省しなさいっ」 ぶん投げた。 それだけで先ほどまで場を席巻していた強者は空の彼方まで吹っ飛んでいった。 「ふう。こんなものかなっ」 次元が違った。 ガトリング砲さえも防ぐことができるだの風の防壁を引き裂く色とりどりな魔法なんて赤子の駄々にも似てきた。それほどまでに純白の少女そのものは完成された力であった。 「……はは……」 だから、だろうか。 東城大和はご馳走に喜ぶ幼子のように瞳を輝かせていた。 ーーー☆ーーー 青き怪物は見ず知らずの世界に飛ばされ、見ず知らずの『少年』が傷つけられている光景を見て、助けに入ることを即断することができる精神性を獲得していた。 だが。 勇猛で眩しい意思はこの世界、いや今の時代においては余計なものでしかない。時代は強者の楽園と化している。誰かを助けるために命を張った怪物を無慈悲に踏みにじる。 もう一度繰り返そう。 時代は強者の楽園と化している。 だから。 『王子』の拳が複数の魔法使いを薙ぎ払った。 ーーー☆ーーー ユーって呼んで。 男の子からそう言われた鬼神はぐらりとよろめくほどの衝撃を受けた。鼻血を噴き出すなんてものは創作物だけの話だと思っていたが、もしかしたら本当に噴き出すのではないかと思うほどの激情が渦巻く。 鬼神。 『どこにでもいそうな姿形の二十代前半の男』は額に手をやり、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、ようやく溢れる激情を押さえつけることに成功した。 ……あと少しでユーを押し倒すところだった、という危なすぎる考えは是非鬼神の中に留めておくべきだろう。
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