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サンダーの怪物化が解ける。そんな野暮なもの必要ないと言いたげに。そのまま大男はルムの華奢な身体を抱きしめた。
愛する相手を抱き締めたいという欲望の、その先。
つまりは、
優しく、それでいて熱烈に、ルムと唇を重ねる。
本能が溢れ返った結果であった。
直後に凄まじい轟音が炸裂した。
何かが弾け飛ぶような、そんな音であった。
ーーー☆ーーー
そこは漆黒に染まった空間であった。
天も地も見渡す限り漆黒に満ちている。
そんな異様な場所にルムはいた。
いや、本当に彼女はそこにいるのか。確かに肉体は完全に再現されているが、どうにも自分がここに『いる』とは思えなかった。
幽体離脱や夢の中のような現実味のなさ。
完全に何かが切り離された感覚が広がる。
だからこそ。
ルムはあの場所に『帰る』ため、この空間に唯一存在している人間へと視線を向ける。
『内』から染み込む情報を統括して、世界の漆黒よりも暗く、濃密で、おぞましい闇で形作られた女へ告げる。
「貴女が世界中の人間の理性を焼き切っているんですね」
「だねー。大体『漆黒』ちゃんと魂レベルで混在しているルムちゃんならいちいち尋ねなくてもいいと思うけど?」
「……なんとなくその言葉が理解できるのが不可解ですね」
ルムでありながら、ルムではない何かが混ざっている。それこそ混在と言うべき状態であった。
だから理性を焼き切るなんて訳のわからないものも理解できた。ルムと混在している『何か』───目の前の女こそ『原因』であると理解できた。
理屈なんてない。
根拠なんて存在しない。
ただの直感、本能がそう囁くのだ。
そして、おそらくそれは間違っていない。
漆黒の闇の中。
唯一浮かぶ女へと。
ルムは挑みかかるように言い放つ。
「理性を焼き切る魔法を今すぐ解除してください!」
「なんで? これはみんなのためなのに」
「なん、ですって……?」
「だってさールムとサンダーの関係や大和と陽香の関係ってば見ててモヤモヤするもの。さっさとくっつけばいいのに、『理性』が蓋をしている。本能に身を任せたら、感情に従えば、目を逸らしている本音を見つけることができれば、それだけで幸せな結末に結びつくじゃん」
それだけ、だった。
それ以上は何もなかった。
『漆黒』と混在しているルムは、それこそ『漆黒』自身と言っても過言ではない状態のルムは、その言葉に嘘はないと確信していた。
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