第?章 欲望の行き着く先

29/35
前へ
/117ページ
次へ
だからこそ。 純真無垢にして未成熟な善性にめまいがした。 それは虫の足を引き千切り、無邪気に笑う子供のようなもの。未完成にして無垢な『それ』は物事を深く考えない。独特の感性で、悪意なく、極大の邪悪さえも霞む破滅を撒き散らす。 ある意味において東の魔女さえも超える悪性。 ある意味において姫川楓さえも超える善性。 『状況によって見方が変わる』極大の存在であった。 「…………、」 理性が焼き切れたことで発生した世界規模の狂乱。世界を統一する『正義』が動くほどの悪党と定義されてしまうほどの『被害』が広がっている。 そのことを説明しても、果たして無垢なる因子は納得するだろうか。一ミリの疑いもなく、一切の迷いなく、己が正しいことをしていると思い込んでいる『漆黒』を納得させるとしたら、このラインでは駄目だ。 で、あれば。 どこを攻めればいい? 「楽しみだなー。ルムや陽香と同じように足踏みしている人たちの背中は押してあげた。世界に愛の花が咲く! みんながみんな本当は狂おしいほどに望んでいる感情を解放できる!!」 「『漆黒』さん」 「ん???」 前提として『漆黒』はルムたちのためを思って行動している。理性を粉砕し、本能を解放し、奥の奥に隠した本音を曝け出すことが最善と思っている。 やはり。 急所はそこであるだろう。 「ボクはこの『想い』を無理矢理暴かれたくないんです」 『漆黒』とルムは混在している。 互いが互いの『本音』を読み取れる。 だから、ここで必要なのは想像しかできない理性の崩壊に伴う被害を語ることではない。そんな脆弱な理由では『漆黒』には届かない。 『本音』こそが。 強い強い『想い』こそが。 必殺の剣と化す。 「この『想い』がなんなのか、それはボクが見つけるものなんです。ボク自身が定義するものなんです! だから、この『想い』を力づくで暴かないでください。心の準備が間に合わないうちから『答え』だけ放り投げないでください。お願いですから……芽生え始めた『想い』をきちんと受け入れるための時間をください」 これはあくまで無数に存在する『可能性』の一つ。 『白』が見据えるルートの一つでしかない。 だが。 少なくとも『この物語の』ルムの本音はこれであった。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加