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「…………、」
微かに。
ほんの微かに。
『漆黒』の表情が歪む。
そして。
そうして。
次の瞬間にはくしゃりと崩壊した。
「ごめん、なさい……」
「『漆黒』さん?」
「『私の時は』本音でぶつかることができなかったから、最後までこの感情を伝えることができなかったから、だからルムや陽香には後悔して欲しくなくて、それで、でも……こんなことされても迷惑だったんだね」
「え、えっと……理性を焼き切る魔法を解除してくれればいいんです。別に怒っては───」
「ごめんなさいーっ!!」
「あ、あのっ、そんなに泣かれると困るというか、世界規模の狂乱を発生させた割に随分と打たれ弱くないですか!? 正直やりにくい!!」
「せっ、せめてっ、償うから! 今度こそルムのためになることするから!!」
「いえ! もう余計なことしなくて結構ですから!!」
「えっと、ええっと……あ!」
「何を思いついたんですか? 嫌な予感しかしないんですけど!?」
「ふふふ。王子様ってばどこぞの最弱と違って最高に格好良いんだから。でも、『それ』はルムが堪能するべきっしょー!!」
漆黒の闇がなだれ込む。
前後左右全方位360度世界を構築する漆黒のすべてがまるで圧縮されるように襲いかかり、そして───
ーーー☆ーーー
目覚めたルムが最初に感じたのは唇に広がる熱であった。
「むっ!?」
強靭な腕に抱き締められていた。胸の奥から『まだ直視することはできない』暖かな感情が溢れる。
そう。
ルムはサンダーに抱き締められ、唇を奪われていた。
(堪能って、まさかこれのことですか!?)
口づけは長く長く続いた。
抵抗することだってできただろう。振りほどけるほどの力はなかったが、それでも黙って受け入れる理由はなかったはずだ。
だけど。
不思議とこのままでもいいと思えた。
「……ルム」
「あ……っ」
唇が離れる。
それが名残惜しかった。
「ルム、なのか?」
「……ええ。そうですよ、サンダー」
それ以上の言葉は必要なかった。
ただ、もう一度、サンダーは唇を重ねた。
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