26人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう。で、貴女は?」
「シュトゥルムフート」
それはトリカブトの意を持つ名であった。
『彼女』は続けて、
「長いのでルムと呼んでください」
ーーー☆ーーー
人目につかない路地裏よりは表のほうが幾分か安全ということで『燕尾服の少年』と怪物『だった』大男は表に出て、近くの噴水がある公園にあるベンチに腰掛けていた(一部地面が沸騰していたが、『燕尾服の少年』曰く今の時代そんなことは日常的な光景なのだとか)。
先ほどまで青き怪物だったはずの生物は身体を刺青で覆われた大柄な金髪の男へと変化していた。青き肌も鱗も夢のように消え去っている。ついでに言えば上半身が裸なのは怪物モードの時に弾け飛んだからであり、露出狂の変態というわけではない。
「た、助かったよ、サンダー」
自己紹介は済ませていたので、『燕尾服の少年』は大男サンダーソニアの名を呼ぶ。サンダーは全身に軽くない怪我を負っていたはずだが、すでにその怪我は塞がりかけていた。怪物特有の自然治癒力が凄まじい、だけではなく───『燕尾服の少年』が施した治癒魔法のお陰である。
「どちらかというとお前さんの『あれ』があったから、俺が魔法使いたちをやっつけられたと思うんだがな」
「まさか。ぼくが役立ったわけないよ」
言って、吐き捨て、『燕尾服の少年』はわざとらしく話題を変える。
「それよりサンダーってこことは違う『どこか』からやってきたんだっけ? 『漆黒の扉』に呑み込まれたルムさんとユーさんを追って」
「……ああ。後から飛び込んだ俺がここに飛ばされたということはルムやちんちくりんだってここに飛ばされたはずだ。心当たりは?」
「各地を転々と旅する日々だから、ここに異物が混ざっていたとしても気づけそうにないかな」
「そうか」
「それより、ぼくはこっちのほうが気になるかな。サンダーのいた場所では人の力を『念』、《魔女》の力を魔法と呼称するとか何とか。話を聞いていると、まるで───」
───異世界からやってきた人の話を聞いているみたいなんだよ。
最初のコメントを投稿しよう!