第一章 麗しき少女よ、汝の正体は

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サンダーの話では彼がいた場所の人間は男女問わず『念』と呼ばれる力を持っており、その力を利用して駆動する『念導器』なんてものが存在する。 その上、不可思議な事情を引き起こす魔法を振るう《魔女》が存在するというのだ。『魔女』という単語は統一政府での政治的な権力者を指すはずなのだが、そもそもサンダーは世界を支配する統一政府を知らないのだ。 全世界くまなく覆い尽くす統一政府を知らないわけがない。秘境の奥地にさえも統一政府の支配力は及んでいる。世界を統一するという一文を完璧に実現しているのだから。 だからなのか。 エリスが異世界なんて言葉を使ったのは。 それくらいぶっ飛んだ発想が出てくるほどにサンダーの話は浮世離れしていた。魔法という奇跡が世界を統べる現代においても異世界なんてファンタジーは確認されていないというのに。 「異世界、か。そうかもしれんな」 「そこで本気にされると、ぼくもそうなんじゃないかって錯覚しそうなんだけど」 「まあそんなことはどうでもいい。ルムとちんちくりんを見つけ出し、元の場所に戻れるならば」 「だったら、ぼくも協力させてもらうよ。さっき助けてもらった恩もあるし、個人的に困っている人を見捨てるのは古傷が疼くからさ」 ーーー☆ーーー 東城大和は女の子たちから少し離れたところで考え込んでいた。具体的には原っぱに座り込み、ブチブチと意味もなく雑草を抜きながら。 (敵は政治的強者たる『魔女』の中でも最上位に位置する東の魔女。暴力も権力も財力も想像を絶するクソ野郎だ。奴の一言で統一政府所属の怪物どもが動く。単体最強組織相手にちっぽけな『中学生』と最愛の幼馴染みとハイテンションガールとトリカブト女で対抗できるわけねえ。ハイテンションガールは結構な力の持ち主だが、個人技がどれだけ優れていたって世界を制する統一政府に勝てるわけないし、勝負に勝つことと誰かを守ることは別もんだ。あいつが追っ手を倒せたって俺たちが生き残っているって保証はどこにもない) さあ、どうする? と一人真面目に今後の展開について思案しているというのに、女の子『たち』のほうからはキャッキャウフフと楽しそうな声が。
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