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ーーー☆ーーー
「はぁ、はぁ……ッ!!」
鬼神は溢れる欲望を押さえつけるために全力を振り絞っていた。
きっかけは噴水がある公園の近くにあるアイスクリーム屋さんを見つけたことか。目を輝かせるユーに濃厚濃縮バニラアイスを買い与えたことか。それともユーの進路上に小石が転がっていたことか。
小石に躓いて、転びかけた。
何とか踏みとどまったが、思いきりアイスクリームを顔面にぶつけ、顔中を白濁に染めたユーの姿はまるでぶっか───
「静まれ、静まるのよ『私』の乙女(?)心ォおおおおおおおおおおおおおおおおおおーっ!!」
「わっ。ど、どうしたの、お兄さん?」
「だ、だめ、もうだめ。こんなの我慢なんてできるわけない。誘っているとしか思えない。そ、そうよ、ユーくんが悪いのよ。『私』の乙女(?)心を蹂躙するから。『私』だって我慢しようと思っていたのに、少し味見する程度で済ませようと思っていたのに、思っていたのにい!!」
天然くんはその身に迫る危機に気づかない。
真性の変態の欲望が降り注ぐ、その瞬間まで。
「あの……」
それを前提条件に。
ユーはどこか申し訳なさそうに、自分でも理解できる言の葉の意味を噛み締め、そしてこう告げた。
「買ってくれたアイスクリーム台無しにして、ごめんなさい」
ぴたり、と。
内から溢れる欲望の炎に突き動かされそうになっていた変態の動きが止める。
「な、にを……どこからそんな話になったのよ!?」
「だって『ユーくんが悪いのよ』って」
「……ッッッ!?」
言った、確かに言った。
だが、それは、その真意は……っ!!
「ごめんなさい……」
小さく、そう呟く。
怒らせたのだと、悪いことをしたのだと、謝らないといけないのだと、そう思わせた。欲望の炎に突き動かされた鬼神の何気ない言葉がユーを傷つけた。
すべて把握して、理解して、分析して。
鬼神は軽く自分を殺したくなった。
「違うのよユーくぅん!! ごめんなさいは『私』が言うべきなのよ、なによユーくんが悪いって、定型文だからってよくもそんなこと言ったものよ、ふざけるなって話よねっ。とにかくねユーくん、ユーくんはなにも悪くない悪いのは全部欲望に忠実な『私』なのよお! だから、ね、そんな悲しそうな顔しないで。ユーくんは笑顔が一番なんだから!!」
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