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3
『それ』は二メートルを超える異形であった。
『それ』は青い肌と鱗を持つ生物であった。
『それ』は額から後頭部、背骨と馬のたてがみのように金色の毛を靡かせていた。
『それ』は全身から血を噴き出し、地に伏していた。
路地裏の一角、十数メートル四方の区画。
その二足歩行の異形は『何か』を庇うように背を丸め、蹲っていたが、それもいつまで保つのか。
「あは。ボーナスステージにしては楽しませてもらったわ」
異形は数名の女に囲まれていた。彼女たち魔法使いがいつもの───道端で見つけた男を路地裏に連れ込み、ストレス発散の目的で各々の魔法の実験台にしていた時に異形の化け物は飛び込んできた。
ストレス発散に利用されていた『燕尾服の少年』を庇い、傷つき、それでもその巨躯で覆い隠した一つの命を守り抜く。
それを。
勇猛な意思を。
「あーさいっこう。化け物がクズを守るとか三流小説かっつーの。なになに、御涙頂戴の感動ストーリーな訳? ぎゃははっ。弱っちいのが悪いんですよー」
「案外、どこかの誰かが生み出したユーモア魔法なのかもね。ぷくく。颯爽と助けにやってきて、無様に敗北だなんて、センスあるじゃん」
「ねぇーもー飽きたー。これぶっ壊して『本題』どうにかしよー?」
時代の勝者は嘲笑う。
化け物よりも醜悪に、怪物よりも凶悪に。
「そうね」
そして。
「もう終わらせましょう」
路地裏の一角で。
いつも通り、時代の猛威が席巻する。
4
「おい少年。こんなところで何をしている?」
「……ルムがいないの」
「なるほど。保護者とはぐれたというわけね。仕方ない、これはもう仕方ないわよね、うんうん」
「お兄さん?」
「ごほんっ。少年。そのルムとやら、僕が探すのを手伝ってあげよう」
「ほんとう!?」
「ああ、本当だとも。そうだ、せっかくだから自己紹介でも済ませておこうか。長い付き合いになるのだし」
「そうだね。ユーチャリスっていうの。よろしくね」
「ユーチャリス、ふふ、ユーチャリスくん。いい、実に良いわ!! くふふ……」
「あの……」
「ハッ!? そ、そうよ、自己紹介だったわね。僕は……そうだな。鬼神とでも呼んでくれ」
「うんっ」
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