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繰り返し、問いかけられる。
東の魔女に銃撃を仕掛けた馬鹿を助けた。それだけで殺されるには十分すぎる理由であろう。そこまで、この時代は狂っている。
その上で。
彼我の戦力差を自覚した上で。
東城大和は吐き捨てるようにこう告げた。
「とにかく逃げるぞ。東の魔女だって暇じゃねえんだ。熱が冷えるまで逃げ続ければ、諦めてくれるはずだ」
希望的観測であったが。
それに賭けるしかなかった。
だというのに、直後にそれはやってきた。
トン、と軽い足音と共に破滅が降り立つ。
「っ!?」
それはピエロのような奇怪な化粧を施した女であった。二十歳超えの女はニタニタと道化じみた明るすぎる笑みを広げる。
「はいはーい。あっしがやってきた理由は分かるよねー?」
「テメェ東の魔女の配下かっ」
「ノンノン。奴隷だよー」
平然と、にこやかに、いっそ誇らしげに。
自身を奴隷と評する精神が時代の歪みを端的に示していた。
「さぁて、それじゃあ可哀想で哀れで悲劇的ではあるけど、死んじゃおっか」
「く、そが……っ!!」
遅かった。手遅れだった。
全ては東の魔女という怪物に逆らったことが原因、全ては憎悪の対象でしかない『女』を助けたことが原因、全てはあの光景を見てエリスを失った過去を思い出したことが原因。
色とりどりな魔法が放たれた。
陽香が展開した風の防壁を、ガトリング砲程度なら耐え凌ぐ守護を軽々と引き裂き、そして───
パァン、と。
間に割って入った『純白の少女』の平手打ちが色とりどりな魔法を爆散させたのだ。
「……は?」
ポカンと口を開き、目を見開くピエロ。
陽香の風の防壁を軽々と引き裂く暴力を、割って入った『純白の少女』は埃でも払うように抹消したのだ。
純白のワンピースに純白の髪に純白の肌。
純白に染められた少女が口を開く。
「へいへい道化師さんよお、『姫川楓』ちゃんがしみったれた悲劇を許すわけないっしょー」
明るく、元気に。
少女は言の葉を紡ぎ、一歩前へ踏み出す。
「くっ」
ようやく衝撃から立ち直ったピエロが動く。ゴァッ!! と戦車を貫き、戦闘機を狙い撃つほどに高威力・高精度な閃光を放つ。敵対者を確実に捉え、確実に殺す一撃が炸裂する。
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