夏の匂い 恋の記憶

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波間に太陽の光がキラキラと反射して、眩しい──。 このフェリーに乗るのは、何年ぶりだろうか。 窓越しから海を眺め、ぼんやりとそんなことを思う。 今日は、お盆のお墓参りに、母方の実家へ両親と向かっていた。 私が中学三年の時、祖父母が立て続けに亡くなったのだが、そのお葬式以来かもしれない。 あんなに可愛がってもらっていたのに、今日の今日まで足を向けられなかった。 ……色々あったとはいえ、チクリと胸が痛む。 船内にいても、微かに潮の香りがした。 その懐かしい匂いは、様々な夏の記憶を思い起こさせる。 子供の頃は、毎年祖父母に会いに行っていた。母方の実家は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島で、フェリーに乗って島に渡るのだが、それがとても楽しみだった。 必ず甲板に出て、潮風を感じながら、海や遠くの街並みをずっと飽きもせず眺めていた。日焼けをしようが、潮で髪がベタベタになろうが、全く気にしない。 今では考えられないことだ。 海を見ながら、遠くにある知らない街を見ながら、子供の私は何を思っていたのだろうか。 もう思い出せないけれど、とにかく楽しくて、ワクワクして、小さな胸を躍らせていたことだけは確かだ。 こう考えると、昔の私は、夏が好きだったのかもしれない。でも今では。 「夏なんて、嫌いだ」 小声で呟く。
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