夏の匂い 恋の記憶

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私は昔から、暑さに弱い。自分の体温より高い気温など、信じられない。しかも、多湿ときている。じっとしていても、汗が噴き出す。 そのくせ、職場ではエアコンが強く効いていて、寒いくらいだ。 外と中との温度差で、身体は常にダルくて、日々の疲れは蓄積されていくばかりだ。 仕事は忙しいのに、体調が悪くて気分も落ちる。故、仕事がいっこうに捗らない。 やっと仕事を終えて、外に出る。開放感に浸って周りを見渡してみて──また凹む。 夏だというのに、これでもかというほど、身体を寄せて微笑みあう恋人達。 幸せそうな表情を見て、思わず "爆発してしまえ!" などと願い、自己嫌悪に陥る。 ……なんて悪循環。 「どんなに疲れてても、会いたかったのに」 もう一ヵ月経つのに、いまだに昨日のことのように胸に痛みを感じる。 油断すると、すぐに気持ちが込み上げてきて、目頭がきゅっと熱くなる。 大学の頃から付き合っていた同い年の彼氏と、ひと月前に別れた。 私は卒業して就職したが、彼は院へ進んだ。 生活のリズムや、価値観がズレていくのは、仕方のないことだった。 しかし、それでも彼を失いたくなくて、私は必死に彼に合わせようと頑張っていた。 相当無理をしていた。そしてその無理は、当然彼に伝わっていたのだと思う。 結局、向こうから別れを切り出されてしまい、少しだけ食い下がってはみたものの、私ももう、疲れ果ててしまっていた。 何年も付き合ってきて、いつかは、と思っていたのに。どうして彼と一緒に歩いていくことが出来なかったのかと、ずっと考えてしまう。 考えても堂々巡りなだけで、何の意味もないことはわかっているのに。 自分の、このうじうじと前に進めない鬱陶しさと、腹の立つほど暑苦しい夏とで、気分は最悪だった。 いっそのこと── 夏なんて、なくなればいいのに。
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