夏の匂い 恋の記憶

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「久しぶり、お兄ちゃん」 笑顔を向けると、お兄ちゃんも表情を崩す。 笑うと子供の頃の面影があって、ホッとした。 そして、改めてお兄ちゃんを見て、その変わりように驚いた。 子供の頃は、典型的なやんちゃ坊主だった。 体つきは華奢な方で、身軽で足も速く、そこら中を駆け回っていた。 それが。 背がかなり伸びて、たぶん180cmくらいはあるんじゃないだろうか。 そして、今じゃもう華奢なんて言葉は使えない、筋肉がついて、バランスよく引き締まった体躯。日焼けした精悍な顔つきが、とても頼もしく見える。 「晴人、今は役場の近くで一人暮らししとるんよ」 「晴人君、役場に勤めとるん?」 「そう。初めはここから通っとったんやけど、たいぎいって出てしもたんや」 母親同士の会話を聞いて、小さく笑う。 "たいぎい" とは、面倒くさいという意味。通勤を面倒くさがるなんて、お兄ちゃんらしい。 「タイミングよう帰ってきとってよかったなぁ! 帰ってきてへんかったら、雪ちゃんに会われへんかったで」 「…うっさいなぁ」 からかうように笑うおばさんに向かって、お兄ちゃんは少し不機嫌そうに応える。 でもそれは、照れているだけだ。その証拠に、お兄ちゃんの表情は柔らかい。
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