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「いいって、そんな。謝ったりすんなよ。オレは、彼女をフッたんだしさ。」
「でもさ」
「いいって、マジで。付き合ってた彼女を奪われたとかじゃないんだし、謝られたって何て言っていいか、分かんねぇし。」
直季はそう言って、やっとほんの少しだけ微笑んでくれた。
それでようやく、俺も張り詰めていた息を、吐き出すことができた。
「そうか?」
「そうさ。」
言いながら直季も、ふぅと溜め息をつく。
それはさっきまでの重苦しい雰囲気に耐えかねてのものじゃなくて、安堵した時につい出るような息だった。
良かった。
直季がほっとすると、俺もほっとする。
もしかして俺、ちょっとブラコンなのかね。
直季とはタメだし本当の兄弟じゃねぇけど、思い返せば小せぇ頃から直季に対してはすごく臆病になるというか。
直季の笑顔が好きで、泣き顔を見れば俺も泣きたくなって。
「直くんも、直くんも」って後ろくっついて、何でも俺の真似ばかりしたがるのも可愛くて。
困ってれば手助けしてやりたくなるし。
今朝は思わずナツキの想いを優先させてしまったけど、結局直季のこと傷つけたんじゃねぇかってオロオロしてるしさ。
カワイイヤツだぜ、直季も。俺も。
おそらくは直季が一生懸命気を遣ってくれてるんだろうけど、また以前みたいに軽口を叩くようになってくれたのは、正直ありがたかった。
それですぐ浮かれて調子に乗る俺も、バカなんだろうな。
「俺だって男だしもう18だし、ヤリたいから」みたいな事言っちまって、それがまた直季を傷つけてしまったみたいだった。
啓之介よ、少しは学習しろよ。
自分に呆れてものも言えないぜ。
で、俺はどうしたかというと、また直季と気まずくなりたくないから「とにかくゴメン」つって逃げるように屋上を後にしたんだ。
その日の帰り、さすがに俺は直季のこと迎えに行けなくて、あいつと顔を合わせる前にとっとと帰った。
そういうのが尚更、あいつのこと哀しませるって頭の中じゃ分かっているのに、実際あいつが哀しむ顔を見たくなくて、逃げ出してしまう。
直季。
お前は昔から俺のこと、格好いいだとかこんな風に生まれたかったとか言ってくれるけど、本当は俺、てんで弱虫の、だっせぇ男だよ。
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