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本当なら、俺はナツキと付き合い始めたばかりだし、連れ同士でどこかへ旅行とか楽しくて盛り上がるはずなのに、俺のテンションは全然上がる気配もなく。
本当に楽しそうな5人を尻目に、窓の外を眺めて溜息ばかりが出る。
さすがにこれにはナツキが気づいて、目的地の駅を降りた時さりげなく
「啓ちゃん、大丈夫?」
と聞いてきた。
「ん?ああ、悪ぃ。ちょっと寝不足でさ。今朝早かったから。」
「そっかぁ。じゃあ今日は、早く寝た方がいいね。」
「おお。」
俺達二人の会話は、それきり途切れてしまった。
「ねぇねぇ、ナツキ!」とエミリに呼ばれて、ナツキもそっちの会話に加わっている。
つーか俺、何でこんなにテンション上がんねぇの?何かもう、むしろ帰りてぇかも。
あんなに衝動的に思うほど手に入れたかった女が、横にいるというのに。
俺は、去年の夏休みに直季と二人ゲーセンで、メダル一枚が取れるか取れないかっつって大騒ぎしていたことを、ふっと思い出した。
そう。この違和感。こういうイベントに直季がいないのが変だし。
この場に俺がいることの、場違いな感じ。
俺の隣が直季じゃない・・・不安感。
・・・ちょっと待てよ。
それじゃあまるで俺、直季が恋しいみたいじゃねぇか。
違う違う違う。あいつ男だし、恋しいとか有り得ねえから。
もうやめようぜ、一人でこんなぶつぶつとさぁ。
とりあえず今日明日はパーっと楽しんで、直季のことは帰ってから考えりゃいいじゃん。
よくよく考えれば、そんなことを自問自答している時点で何かおかしいと気付くべきだったが、道の突き当たりに水平線が見えてきたので、本当にそれらの考えをひとまず置いておくことができた。
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